夫婦ですが何か?Ⅱ
でも、確かに立てつづけに煮物も嬉しくないだろうと、自分でも納得するともう数日置いてから作って持っていこうかと思案する。
そんな風にエントランスのフロアを抜けてエレベーターホールへの角を曲がってしばらく。
もう目の前に立ち彼がボタンを押したくらいに背後から駆けてくるような足音がし、何の気なしに振り返れば捉えたのはこれまた見覚えのある姿。
でも、少し戸惑ってしまう。
それは相手が先に示した態度によってだったけれど。
足音の通りに走ってきたらしい姿が息を切らして肩を揺らし、私を見るなり驚愕に見開いた双眸が徐々にゆっくり普通のサイズに戻っていく。
そしてゆっくりその身も私と新崎の傍に置いたのは・・・。
【榊】
偶然にも同フロアの人間がこうしてそろった場面。
でも偶然と結ぶには色々と浮上する疑問に新たにこの場に身を置いた隣人に意識がいってしまう。
チラリと視線を走らせ捉えた姿はようやくその呼吸を緩めていて、汗が滲む肌と僅かに湿気を帯びた髪をまさに今掻き上げ横に流していく。
そしてより明確になった顔はやはり整っている。
でも、そんな事を意識して見つめていたわけじゃない。
だって・・・謎なのだ。
特別会話もなく不思議なめぐり合わせの3人でエレベーターホールに立ち、ようやく到着音響かせ開いた扉からゆっくり乗り込んだのは新崎から。
それに次いで中に乗り込むと奥の壁に寄り、最後に榊が乗り込んでその足を奥に進めていたタイミングに。
不意にふらりとよろけた姿に咄嗟に体を支えるように手を伸ばし添えた。
走った貧血なのか、ただ純粋によろけたのか。
小柄な身で榊を支えて彼の顔が私の顔の横に来た瞬間。
「ーー痛っーーーー」
「・・っ・・・」
支えた直後に私の肩を掴んで自らのバランスを保って離れた姿。
どこか瞬発的に押し返された感覚に支えて触れていた手を離すと、僅かに苦悶の表情であった榊と視線が絡む。
でも絡んだ瞬間にその表情は消え『すみません』と小さく声を響かせた後に私から離れて壁に寄りかかった。
そんな光景を静かに横目に捉えていた新崎。
壁に寄りかかると俯き誰とも接触を拒むような姿の榊。
そして同じくその場に存在する私はめまぐるしい疑惑の渦に必死に落ち込まないように色々な思考が頭を巡る。