夫婦ですが何か?Ⅱ
ついさっきだ。
人をむやみに疑ってはいけないのかもしれないと、自分を反省し振り返ったのは。
なのに、どうしても引っかかる問題が小さく間隔を開けて自分周りに残されて。
簡単に疑ってはいけないと踏みとどまろうとする感情に追い打ちをかけたさっきの場面。
だって・・・、おかしいんです。
私は・・・・この男と会っている。
それこそ、このマンションを出る際にすれ違っているのだ。
私は入口に向かって、彼は・・・確実に帰宅するためにこのエレベーターに足を向けていた。
そう記憶の回想をすると壁に寄りかかって未だ俯いている男を確認した。
本来・・・すでに部屋にいてもおかしくないのでは?
それがなぜ・・・私と新崎より後に駆け込むようにこのマンションに戻ったのか。
夜のランニング?
それにしては普段彼が行う様なスタイルとはまるで違う。
そして息の切れ方も、ランニングですでに出来た呼吸を崩し、全力疾走したような。
何か目的あって走った後の様な。
寄りかかる体が身につけているのは薄手の長そでで、フード付きパーカーで。
でも、それだけじゃ犯人として疑うのも失礼な話だ。
この時期こんな服装の人間なんてその辺にいくらでも歩いている。
走ったのだって純粋に何かあってのそれだったかもしれないのだ。
なのに・・・こうして疑惑に染まってどこか胸の内が治まらないのは・・・。
私を捉え視線が絡んだ瞬間の異様な驚きと・・・・。
彼を支えた瞬間、小さく漏らした声と表情。
咄嗟の反応だった。
私も特に考えることなくよろけた彼に手を伸ばし触れた。
彼の・・・左腕に。
もう片方は肩の位置だったか。
でも反応を示したのは支えようと強く左腕を掴んだ瞬間だった。
小さく耳元で漏らしたのは痛みによる苦痛の声。
そして彼も瞬発的に私を離し、今こうして自分の存在をより無に近づけるようにエレベーターに身を置いている。
これは・・・偶然ですか?
だとしたら・・・・出来すぎた偶然。
どこか息苦しい狭い狭い箱の中で乗っているのはたった3人なのに、膨張していく疑惑で呼吸困難になりそうだ。
おかしい。
最初は【ただの】微々たる近所づきあいの問題であった筈がじわりじわりとその大きさを変えて、今はこうして緊張感さえ生みだしている。