夫婦ですが何か?Ⅱ





眩暈がしてしまいそうな疑惑の嵐に終止符を告げるようにエレベーターが高い音を響かせ不動になる。


真っ先にその身を動かしたのは榊で、スッと寄りかかっていた壁から体を離すと振り返るでもなく歩きぬけていく。


その背中をぼんやりと見つめていれば、



「・・・・彼に何か思う事が?」


「・・・・・私が・・・マンションを出る時にあの人は丁度帰宅して、・・・すれ違ってエレベーターに向かったのを見てるんです・・・」


「・・・・・成程・・・、でも・・我々より後に帰宅した・・・」


「・・・・・・腕を・・・痛めてるみたいでした。・・・見てないですけど・・・触れたら・・・瞬間的に苦痛を漏らしてたんです」


「腕・・・ね。成程・・・【偶然】にもあなたが犯人に噛みついた場所と同じ腕を痛めて・・・・【偶然】にもフードつきの服を着ている。

よく出来た・・・・【偶然】ですね、」


「・・・・・・でも・・・、疑惑は疑惑。

証拠もない・・・話ですから・・・」



彼にも自分にも言い聞かせるように言葉を締めると、ゆっくり息を吐いてから歩きだし自室に向かう。


後ろを歩く姿もそれ以上の事は口にせず、部屋の前につくと私に声をかけて部屋に駆け込んだ。


そして手渡されたのは未開封の氷で、さすがにそれを受け取る際には軽く口の端を上げて頭を下げた。


ゆっくり頭を上げて絡めた視線で無言の会話。


もう、今日はこの話は終わりだと。


そう確かめ合うように見つめると、ようやく何の変化もなく和気あいあいとしている自宅に身を滑り込ませて息を吐いた。


玄関に入ってすぐに扉に寄りかかって俯くと、パッと明るくなって顔を上げる。


視線の先にはリビングからその身を出し廊下の明かりをつけこちらを見つめる父の姿。



「・・・・遅かったな」


「うん・・・・途中ね、隣の家の人とあって話しこんじゃってた・・・」



嘘ではない。


だからこそぶれる事なく言葉を返すと平穏無事な空気溢れるリビングに入りこんでその安堵ばかりの空気に浸った。







ねぇ、ダーリン・・・。


もし、明日話あったら・・・・、


少しはこの疑惑の嵐から抜け出せるのかしら?





目指すは平穏な老夫婦なのよ?



ダーリン。







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