夫婦ですが何か?Ⅱ
何ら変わらない空気に安堵の息を吐いて口の端をあげると、それを見ているかのようにクスリと耳元に響く彼の笑い声。
『今、・・・もしかして笑ってない?』
「・・・どう思います?」
『笑ってるね。・・・そんなに俺と飲むのは楽しい?』
「そうですね、・・・あなたと飲むのは一番緊張感から解放される瞬間でもあるので」
『素直~。俺と並んで飲む時もそんくらい態度が柔和だったらいいのに・・・』
「素直に言う事きくような女だったら興味なんて抱かないでしょうに」
『うん、反抗的な方が慣らしがいはある』
私の言葉に肯定響かせ楽し気に笑う声に同じようにクスリと笑ってグラスを空けた。
手すりに身を預けこの不可思議な晩酌の時間に程よく心地良く酔いしれて、ゆっくり目蓋を下すとそのまま気分よく眠れそうな。
機械越しでも私を安堵させる声音や空気はさすがだと思う。
同時に少し・・・・、
「・・・・やっぱり・・・寂しいですね」
『うん?フフッだから電話してきたんじゃなくて?』
「・・・・私達喧嘩してたはずなんですよね?」
『え~、そこ忘れてた?じゃなきゃ俺ナウで千麻ちゃんの隣で飲んでるはずなんだよ~?』
決して非難するような言い方でなく、どこかおちゃらけたような言い方の彼に一笑。
そしてカランと響く氷の音を耳に、目を閉じた瞬間に鮮明に思い浮かぶ。
グラス片手に髪を夜風にふわりふわりと遊ばせながら、手すりに寄りかかり夜とも朝ともつかぬ空にあのグリーンアイを向けているのだ。
手に取るように分かってしまう姿。
それだけ日々彼と過ごしてこの体が記憶しているのだ。
そしてそんな彼にそっと悪戯を仕掛けるように触れるのが私は好きなのだ。
でも、
フッと目蓋を開ければ、その姿は電話の向こうである距離もある彼の実家。
触れること叶わないと知れば余計に触れたくなってしまうそれに苦笑い浮かべ、無意識に溜め息を吐けば見事反応した彼の失笑。
『どうしたの?』
「・・・・いえ、なんか・・・・・」
『うん?』
「・・・欲情しました」
『・・・・・・・・・・全力疾走で帰ろうか?酒やめて栄養ドリンク飲みながら向かうけど!?』
「ああ、はい、別に帰宅は求めてませんのでお気になさらず」
『気にするよ!!ってか、今の発言でめっちゃ素直に反応しちゃったじゃん!!』
「フハッ・・・・アハハハ・・・」
ああ、それは・・・本当の一言ですね?