夫婦ですが何か?Ⅱ
しかし、むせる元となったのが水でなく酒。
なかなか止まない咳と苦しそうな息遣い。
さすがにその切なげな電話先に方眉上げると声をかけていく。
「・・・・大丈夫ですか?」
『ゴホッ・・・大丈夫じゃな・・ゲホッ・・・』
「声掠れてますね・・・」
『だ・・誰の・・・』
「また私のせいでしょうか?」
『ぞ・・・そうじゃな・・・いや、だって・・・いきなり・・・』
掠れた声で必死に言葉を紡いでいる彼の姿を想像しながらグラスに日本酒を注ぐと口に持っていく。
そして一口飲んだ瞬間にウィスキーにしようと思っていた事を思いだしながらごくりと和酒を飲み込んだ。
『キ・・キスって・・・何?』
「・・・別名、接吻。己の唇を相手の体の一部に・・」
『違う・・・、キスの意味は知ってるから・・・、そうじゃなくて・・・』
「別に・・・、あなたにならって猥褻な電話をしてみたくなっただけです」
中身を揺らすようにグラスを回転させながら、淡々とまともでない発言を口にすれば。
未だ呼吸が整いきらないらしい彼の小さな咳払い。
『わ、猥褻?』
「・・・なんとなく、キスしたくなったので・・・してみようかなぁ。・・・と、」
『・・・・えと、・・・現実問題・・距離・・』
「・・・想像力豊かでしょう?2作も名作生み出してるあなたなら、」
『なんか【名作】の部分が嫌味でからかってる感じに聞こえたけど。・・・ってか・・・何?も、妄想キス?』
「・・・【妄想】というか、想像でしょうか?」
『・・・・テ、テレフォンセッーー』
「自主規制働かせてくださいね。そしてそんな卑猥な事いたしませんから」
軽く恍惚と羞恥交わる彼の声に、咄嗟に危険ワードの発言禁止を告げる。
多分今戸惑いながらもワクワクしてそうな・・・、虐めたくなるような顔をしているんだろうなぁ。と思うと口元が緩む。
「ダーリン・・・、目を閉じてくださいね・・・」
『マ、マジに?』
「・・・・じゃあ、しません」
『ええっ!?すでに気持ちはそんな未知のアダルト世界に期待で満ちてるんだけど』
「・・・・なんかいちいち厭らしい言い方しますね」
『提案したのは千麻ちゃんだよ?』
「ここまで気合入れて待ちかまえられるとなんか若干引いてしまって・・・」
『ええ~、』
勿論・・・これは苛めなんですけどね。