夫婦ですが何か?Ⅱ
「・・・・茜、」
『おお、なんか・・・千麻ちゃんの名前呼びってソワソワする』
「・・・呼びにくいです」
『おいっ、』
「でも・・・・電話先だから、・・・顔を見ないから言いやすい気もします」
『・・・・・それって・・・ん?今更名前呼びに照れてるって事?』
「よく・・・分かりませんが。でも、面と向かってが気まずいという事はそうなんでしょうか?」
『俺に聞かれてもねぇ。・・・ってか、本当にこうやって電話だと素直なんだから・・・』
フフッと呆れを装った笑い声を響かせ、多分今酒を煽った。
耳の神経を研ぎ澄ませて聞き入れた音で機械越しの彼の現状を想像して隣に感じる。
「顔を見ないから・・・素直になれるものなのですよ。目で見る駆け引きが出来ないからこそ、言葉はその威力を存分に発揮するんです。悪意の言葉はそれを強めて、」
『好意の言葉はそれを強める?』
「・・・・だから・・・あなたには・・・、言葉しかないこの場で悪意なんて見せません。
・・・・・・・・愛して・・信じてるのよ?・・・ダーリン」
『・・・・・・・・・はぁっ・・・・・、何か・・・今百人力・・・千麻ちゃんが望むならスーパーヒーローにもなれちゃいそうな、』
「・・・・・3分間だけの?」
『そっちかぁ、俺はバイク乗る方思い浮かべてた』
お互いに小さく笑って、他愛のない時間の経過でグラスの氷をじわじわと溶かして。
なんて事のない会話なのに退屈しない。
いつまでもこうしていたいくらいに馴染んで心地よくて。
でも・・・。
「もう・・・3時過ぎてます、」
『寝る?』
「変に目が冴えてますが・・・・いつまでもこうしてもいられないので、」
『じゃあ、続きは家帰ってからラブラブしますか、』
「何を言ってるんですか?帰ったらまず先に私とあなたは戦争が待っているでしょう?」
『えっ、わざわざ戦にしちゃうの?今こうして和やかな2人なのに?』
「夢の時間は自分の意思に反して終わる物なんですよ。甘いのは宵の内だけ・・・日の高い現実(リアル)の苦さをいかに甘くして生きるかが人生ってものでしょう?」
『わおっ、カッコイイ~』
「ええ、惚れ直してくださって結構ですよ」
『じゃあ・・・明日は強烈な苦みを甘くする為に頑張りますか』
言葉の引用。
言いながら慣らすかのように体を伸ばしたらしい彼の口調。
それを耳で感じながら自分の身も部屋に投じるべくベランダの手摺りからゆっくり起こした。