夫婦ですが何か?Ⅱ






「翠姫にっーーー!!」




言いかけるように叫んだ声に彼の手が途中でピタリと動きを止めて、それを確認してから続きの言葉を彼の後ろ姿に向けていく。




「・・・はぁっ・・・・翠姫に・・・誰かに暴力振るった父が必要ですか?」


「・・・・・・」


「・・・・もう・・・充分です。私がされた事の分程は・・・もうあなたがやり返してくれましたから・・・」


「・・・・まだ・・」


「いいえ、・・・・充分です。・・・・私は・・・これ以上の報復はあなたに望みません」



ゆっくりと理解を求めて言葉を弾いて、彼の怒りを解く様に集中する。


解けなくてもいい。


ただ、理性的にその怒りをコントロールしてほしい。


そのまま怒りを暴力としてぶつけたら、その男としている事がなんら変わらなくなってしまう。



「・・・・・これ以上やる価値もない。・・・・ただの、・・被害妄想強い小者な男です」


「・・・・」


「死ぬより辛い後世の方が、よっぽどこの男は苦しむことになりますから・・・・」



だから・・・その手を下して・・・。


ダーリン?



「・・・・・・今・・・私が望むのはあなたと触れ合う事だけです・・・」


「・・・・・・・・・・っ・・」




懇願の中に切実なる願望を込めて。


声もそのままに震えて響かせれば、息を飲んだ彼が次の瞬間に男の横に瓶を叩きつけ。


派手な音と飛び散る破片が光を反射してキラキラと光る。


それを一瞬見つめてから彼に視線を戻せば、はっきりとした音で息を吸って吐いてチラリとこちらを振り返る。



「・・・・・・寛大、」



まるで非難するような言い方と呆れたような溜め息に一瞬呆け、でもすぐに眉根を寄せると不満を漏らす。



「まるでそれが悪いかのような口ぶりですね、」


「はいはい・・・正しいのは千麻ちゃんですよ・・・」



なんて感じの悪い。


明らかに不満を示すような口調と溜め息の連発にこちらも不満に思えど心底安堵も感じている。


確かにまだ不愉快健在ではあるけれど彼の異常な憤りは抑制出来たらしい。


その証拠に悪態をつきつつもこちらをチラリと見上げ視線が絡んだ瞬間に軽く上がった口の端。


そして唇の動きだけで示された言葉。




『ありがとう』




多分冷静さを引き戻したことへの謝礼。






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