夫婦ですが何か?Ⅱ




世話の焼ける。


そんな感じに皮肉っぽい笑みを返したのに、彼の背後に捉えた光景で表情が強張った。



「っーーーー茜!!!」


「ーーっーーー」



油断した。


こういう小心者で感情的な奴ほど馬鹿に馬鹿を重ねて。


この後自分の立場を追い詰める結果になったとしても感情のままに行動するのだと。


ここまでくれば戦意喪失だろうと高を括って、相手の行動は全く予想もしてなければ注意もしていなかった。


彼の意識が完全に私に移ったタイミングを図っていたかのように、彼が叩き割った瓶の口を握って勢いよく男が彼を背後から狙ったのだ。


私が咄嗟に叫んだ事で背後に意識戻り振り返りながら身を交わした彼がすぐに床に倒れ込んで、脇腹を抑えると苦痛に表情を歪ませる。


鋭利なガラスの刃が引き裂いたシャツの切れ口が鮮明な赤に染められ、コンクリートの床にポタリポタリと赤い滴が落ちて水たまりのようになっていく。


一瞬の出来事に混乱と畏怖で不動になり、でもまだ動きを見せる姿に思考より早く・・・。


待ったをかけず、倒れ込んだ彼に今程も傷を負わせた空き瓶の破片を振りかざした男を捉え本能のままの行動。




「そのまま伏せててっ!!」




どこにこんな力があったのか?と自分に問いたい程の運動能力発揮で。


前のめりに飛び込むように位置するより下の手摺りに手を伸ばし掴み、階段を蹴るように足を離して体重移動。


男の意識がこちらに移った時には手摺りを軸に体重かけて横から蹴り飛ばした瞬間。


さすがに着地まで格好良く決められるはずもなく、受け身を取りつつも再び床に倒れ込むように落ち。


それでもすぐに両手をついて起き上がると倒れて悶絶している男に感情的に言葉が弾かれた。




「私の男に・・・何してくれてんのよっ!!」




その時の心中・・・それはもう烈火の如く。


それこそまだ足りないと、感情のまま掴みかかろうかとその身を起こし始めた瞬間に予想外の存在に背後から阻まれ抑え込まれた。



「ち、千麻ちゃっ・・・大丈夫!俺大丈夫だからっ!!」


「・・・殺す・・・本っ当に・・・殴り倒す!!」


「待って待って、本当に・・・・・ってか、『殺す』の後の『殴り倒す』はなんか締まらないよ!?」


「離せっ!!仇討してやるぅぅ!!」


「死んでないからっ!!千麻ちゃんっ・・・かすり傷!!ちょっと・・・かなり深いけどかすり傷だからぁ!!」



必死に抑え込む彼を彼と認識しているのにしておらず、完全に怒りのままあの男に報復してやろうと、ホラー映画さながらに張いながら進もうとしてしまう。


< 212 / 574 >

この作品をシェア

pagetop