夫婦ですが何か?Ⅱ
倒れた男のすぐ横で壁に寄りかかって腕を組み空を見上げていた榊が、私の視線に気がつくとその身を起こしてのそりとこちらに歩み寄る。
「俺は別にそこのお二方とは関わっていないから。単なる好奇心働かせているうちにこの厄介な事態に巻き込まれていっただけ」
「はぁ・・・・でも・・それがよく分からなくて。私はてっきり彼は榊さんを疑って私に注意を促しているのだと思ってました。でも、そうじゃなかった・・・」
不意に視線を彼に走らせれば、今までとは異なる微妙な笑みを私に向けて。
怪しんで目を細め、ゆっくり榊にその視線を戻していく。
「・・・彼とあなたの間には因縁があるとおっしゃってましたよね?それによってあなたは私に色々仕掛けてきていた」
「まぁ・・・そういう事になるかな・・・」
「そして私が知る限り、彼は非っ常ーーーに、その事に後ろめたさ感じて、かなりあなたの仕返しに警戒して私に牽制していました・・・」
「・・・・・・へぇ、」
私の言葉に目を細めた榊の視線が確かめるように私の背後の彼に移ったのを見逃さない。
「彼はあなたにどんな仕打ちを?」
「それは・・・・後ろで身を小さくしてる旦那に聞いてみてください」
ニッと嫌味に口の端を上げた榊。
でもその嫌味は私に向けてじゃない。
背後で息を殺すように静かにしている彼に対して。
すぐにその姿を振り返り無言の威圧で問いただすように睨みを効かせれば、不意に耳に入りこんだ泣き声に反応し体の向きを変えていく。
近づいてくるのは子供の泣き声で、聞き間違えるはずのない翠姫の声だ。
そうして榊や新崎が降りてきたのとは逆に下の階から翠姫を抱えながら登ってくる姿がこちらを見た。
同フロア最後の住人の彼女だ。
「あっ、いたいた。終わったぁ?」
今までの事態に興味なさげな無表情で同じ踊り場に向かって段差を登ってくる姿にも色々と疑問はある。
でもとにかく今は愛娘を抱きしめたいと身を動かそうとした次の瞬間に驚愕に染まる。
「っ・・きゃっ・・・」
伸びて放置していた男がいつからなのか意識を戻していたらしく、素早く立ち上がると下りの階段に動き出す。
上り口の方に集結してしまっていた自分達の失態。
そして男の目当ては逃げる事と同時に翠姫と彼女だったらしい。
勢いよく彼女に掴みかかると翠姫を取り上げようとして、それを守ろうとしてくれた彼女も男の攻撃の対象に入りこむ。
勿論黙って見ている筈もなくその場の全員が動きを見せて、私も再び血が逆上せ上りそうになった瞬間。