夫婦ですが何か?Ⅱ
零れ落ちてしまえば自分の意思ではどうにもならない涙が頬を伝って。
抱きしめられた体からモゾリと腕だけを自由に開放し滑るように彼の背中に這わせていく。
密着すれば伝わる心音がメトロノームのように一定で、トクントクンと響くそれに自分の心臓が合わせようとしている気がする。
そんな筈ないのだけども。
「・・・・触られた・・・だけ?」
「えっ?」
「・・・・他に・・・何もされてない?」
抱きしめたまま弾かれた言葉や響きに一瞬自分の方が動揺しそうになった。
その事実を確認するのが酷く恐ろしい事のように彼が怯えた心持で言葉にしたのを理解したから。
だからこそ声を発するより早く頷く事で触れている肌から返事を明確にし、追って言葉を補足とした。
「大丈夫。・・・・触られたといっても・・・腰とか腹部が殆どでそれ以上の事は何もされてません」
「そっ・・・か、・・・全然良くないけど・・・良かった・・・」
言いながら崩れ落ちるように私の肩に預けられた彼の頭。
その重みを感じながら柔らかく彼の頭を撫でて呼吸を感じる。
お互いでお互いを癒すように身を寄せてリズムを整えて。
慰めたり慰められたり、ほぼ同時にその繰り返しをしているこの瞬間。
先に静寂に音を発したのは彼。
「・・・・・・でも、・・・ちょっと感動したんだ」
「・・・・感動?」
「『あなたの実力不足を被害妄想で擁護して、何も知らない彼を馬鹿にするなっ!!』」
「・・・・・ああ。・・・やっぱり、気がついてくれていましたか」
「うん、あのおかげで場所を特定できたのもある。さすがだね千麻ちゃん」
「GPSもその室番までは分からないでしょうから。あなたがあのタイミングで電話をかけてくれたおかげでもあります」
思い返すはあの瞬間。
あの男の部屋で全てを悟った直後の彼からの着信。
タイミング悪くあの男がその姿を現した事で【答】は叶わなかったけれど、【応】だけはしっかりと成しポケットにそれを突っ込んだのだ。
「会話の中で部屋の階数示したのも俺への念押しでしょ?」
「あなたの事ですから言わなくても犯人が分かった段階で知り得た情報でしたでしょうけど」
「本当・・・ピンチでもたくましいんだから。・・・ああ、それに・・・フッ・・・やっぱりカッコ良かった・・・」
「何がですか?」
「『あなたなんて、いくら積まれても誘惑なんてお断り』、聞いてて不謹慎だけどゾクゾクしたよ」
「M・・・」
「で、ちょっと優越感。・・・俺は積まなくても悪の美人総統に誘惑されてる」
クスリと笑った彼が耳元に囁く様に優越感を示してから唇で柔らかく触れる。