夫婦ですが何か?Ⅱ
何のつもりなのか。
しばらく色々な角度から視線走らせ私の手を見つめ倒して、あっ、と思った瞬間には歯の感触が自分の手に伝わる。
噛まれた。
甘噛みだったけれど。
そして付け足された一言。
「好きな女の子は男には常にご馳走ですよ?」
手に唇を寄せたままの上目遣い。
愛くるしい犬の様な目で見上げてのとんでもない決め台詞に一瞬呆けてすぐに頭の再起動。
不覚にも絶妙な角度の表情に騙されながらその言葉に心臓が跳ねたのも本当。
安い・・・自分。
「・・・歯が浮く、」
「残念、切り返しが遅いよ千麻ちゃん」
へラッと笑って私の失態の間に鋭く突っ込むと再度の歯の感触。
くすぐったいような焦れったいような。
彼は気がついているのだ。
私は彼限定で安い言葉に弱いのだと。
「案外・・・、可愛いところ満載だからね千麻ちゃん」
「あなたの感覚が歪んでるのでは?」
「俺、こう見えて一般的可愛い女子との交流多い方でしたから?感覚としては一般的だと思いますよ」
言いながら徐々に噛む位置を移動して、今まさに歯の感触を得たのは手首よりやや上。
それに抵抗を示すでもなく、ペットがじゃれついているかのような感覚で受け流し、それでも内心は見事彼の策にハマっていく。
「千麻ちゃんを食べ物に置き換えるなら・・・少し苦い・・・大人味のカラメル?」
「・・・・食べ物ですかそれ」
「口に入れるもん、食べ物でしょ。・・・苦いんだけど・・・絶妙に甘くて、その苦さがあるからまた甘味も強調して・・・・・・癖になる、」
「クサイ・・・」
「褒め言葉として貰っておく」
あからさまな非難の表情で言葉を弾いたのに、賞賛されたかのように微笑んだ彼の唇がすぐに二の腕に触れて甘噛みする。
再びチクリチクリと感じる彼の策に眉をしかめ、乗ってはいけないと自分に言い聞かせると彼の話題に便乗。
「・・・・あなたを食べ物に置き換えるなら・・・」
「うん、・・・何?」
「・・・・ちくわ、」
「・・・・・・・芯がなくてふにゃふにゃだとでも言いたいのかい?ハニー」
さすがに眉根を寄せた姿に小さく勝ったと心で沸く。
見事言わんとしたいことを言い当てた彼に肯定を示すように口の端を上げてみせた。