夫婦ですが何か?Ⅱ
その笑みに明らかなる不愉快の表示として舌打ち響かせた彼が、今まで甘噛みより強く噛みついて思わず眉根を寄せてしまう。
「痛いです」
「俺は心が痛いです」
「いいじゃないですか、好きですよ?ちくわ」
「深みがない!!なんか嫌だちくわは!!」
「深み・・・・ああ、なら・・・チーズ」
「・・・・」
「ほら、一見匂いも鼻に付くし嫌煙の対象で・・痛っ!!」
思いっきり噛みついてきた彼に負けじと頭を押し返すと、それでも不満の眼差しで無言の非難を続ける彼。
今度はちゃんと意味あってのチョイスだったのに、どうも彼にとっては不愉快の対象だったらしい。
軽く面倒な。
それでも言いだした手前途中で投げ出すこともこの男は許さないだろうと、類似するものを探して視線を泳がせる。
「ああ、」
「今度はまともな返答で、」
「私は真面目でしたよ。・・・・・しいて言えば、・・・ワインでしょうか」
「・・・・その心は?」
「・・・・若いころは造りが浅くて飲むに値しないような刺々しさ、」
「噛むよ?」
「・・・・でも、・・・熟成されて丸くなって深くなって・・・ゆっくり嗜みたい・・・上質な酔いを程よく与えてくれるワイン」
「・・・・」
「・・・・・何かご不満は?」
チーズでも似たような事を含んで口にしたのですけど。
さぁ、今度はどうだと目を細めて不満を継続していた男を見つめ返す。
彼も彼で私をじっと見つめ、次の瞬間には肌に優しく触れる唇。
肌の個所を明確にすれば・・・・首筋。
しっとりと押しつけ軽く食むと場所を定めて印を残す。
決していたくない刺激で紅点を残し、ゆっくり離れた唇は弧を描いている。
首筋への愛撫で私の言葉に満足なのは充分に伝わっていたけれど、更に満足そうな笑みに思わず頭を撫でてしまった。
「・・・・いいね、ワイン」
「機嫌直りましたか?」
「うん、千麻ちゃん好き・・・」
「単純ですね」
「・・・・・ねぇ、」
「・・・ダメですよ」
「ええ~、ってかそこまで悟ってるんじゃん」
「あんな分かりやすいお誘いに気がつかない方がおかしいでしょう。クサイ言葉まで連ねて、」
そう、焦らすような刺激の繰り返しは彼なりの誘惑。
やはり痛みよりも欲情が上回ったらしい彼が私のそれも引き上げようとじわりじわりと攻め込んでいたわけだ。