夫婦ですが何か?Ⅱ
それに気がつき、まぁ多少はそのお誘いに揺れてはいたけれど、理性的な自分が何とか浮上し待ったをかける。
そして視線を走らせるのは彼の腹部。
その視線を追う様に彼も自分の真新しい傷痕に視線を走らせると苦笑いでその顔を浮上させた。
「ご、ご心配なく、」
「するに決まってるでしょ」
「大丈夫!痛みも忘れるくらい集中する」
「あなたがそうであっても私の体も絶賛不調中だとお忘れでしょうか?」
「・・・・・・ダメ?」
「ダメです」
哀願するような目をしても乗る物か。
そんな意思をしっかりと彼を軽く押し退け、すっと体をソファーから離すと背伸びをする。
やはり体がキリキリと痛んで眉根が寄って、それでもさっきみたいに恐怖に満たされない心に安堵する。
完全に消えたわけではないけれど緩和した。
まだしばらくは思いだす場面は多いのだろうけれどきっと風化していく。
彼といれば・・・・すぐに・・・。
積み重なる時間が恐怖よりも濃密すぎるのだから。
チラリと彼を確認すればソファーで不貞腐れた表情でクッションを抱きかかえていて。
その姿に口の端をあげすぐに下すと視線を窓の外に移して声を響かせた。
「休戦の杯・・・」
「えっ?」
「・・・・・・飲みましょうか?」
言いながら歩み寄っていた窓を開ければ程よい夜風にふわりと煽られて、心地よさに目を細めれば背後で動く気配を感じた。
振り返ればその姿はソファーではなくキッチンに移動していて、慣れた感じにグラスを2つ片手に持ちもう片方で日本酒の瓶を掴む。
そんな彼を捉えると一足先にその身を夜風に晒していき、手摺りに身を預けると彼も追ってその身を並べる。
すでに満たされたグラスを静かに手渡され無言で受け取って、お互いに何を言うでもなく視線を絡めると軽く笑う。
それが合図の様にグラスをお互いにこつんと合わせ、唇に寄せると飲む直前に、
「休戦に、」
「これからもよろしく・・・奥様、」
お互いにグラスを合わせ掲げた言葉。
それを耳にごくりと一口飲み込んで、本当に長い蟠りの終幕を感じた。
【休戦】
いつまで続くか分かりませんが、
今この時は
私達らしく睦まじい時間を過ごしましょう。