夫婦ですが何か?Ⅱ
Side 茜
気怠い。
ままならない意識下でもそう感じて、そろそろだと体内時計が語るのに目蓋を開けられない。
体の奥の奥から発火しているようなじりじりと熱い感覚。
なのに同時に震えるほど寒くて、でも矛盾したように汗ばむ感覚に嫌悪する。
なんとか浮上し始めていた意識が抵抗むなしくまた沈みかけた。
そんな瞬間。
「・・・大丈夫ですか?」
耳に柔らかく響いた案じるような言葉と優しく揺さぶられ意識を引き上げてくる手の感触。
そればかりには気怠い意識も必死で浮上し重々しい目蓋をあけ光を通せば、スッと陰った視界と額に触れた冷たい感触。
水にでも触れていたのだろうか。
冷たい指の先に今この時は心底癒され再び目蓋が落ちそうになり、それでも一目姿が見たいと何とか保った。
まだ霞む目が煩わしい。
目を擦ろうにもそんな力さえ働かせるのが億劫な現状。
これ・・・何だ?
でも経験がないわけじゃない。
あれだ・・・、
「熱がありますね」
そう、それ・・・、
「それも高熱かと、」
それも体の倦怠感で嫌って程理解してようやくまともになってきた目に彼女の姿を捉えて僅かばかりに口の端を上げた。
「・・・・おはよう、・・・千麻ちゃん」
「呑気に挨拶している場合ではないかと。体温計持ってきます。他に何か必要ですか?薬と水は持ってくるつもりですが、」
ベッドに腰を下していた彼女が立ち上がりその反動で軽く弾むスプリングを感じ、何とか振り絞って自分の頭まで持ち上げた手で前髪を掻き揚げるように額に走らせ息を吐く。
ああ、この感覚・・・久しぶりだ・・・。
怠い。
「・・・・・じゃあ、着替え。・・・・今日朝から会議・・」
「却下」
「・・・・」
「そんな状態で会社に・・・ましてや会議に出たところでまともな意見など出来る思考ではないでしょう」
「でも・・・お仕事ですからねーー」
「役立たず」
「・・・・・」
「現状、あなたが参加したところで足を引っ張るだけの事態が予測されます。会社の利益を僅かばかりにも下げる可能性の要因は元秘書として見過ごせませんので、」
相変わらず淡々と本音をぶつける姿に、今日ばかりはこれ以上の反論が出来ない。
確かに彼女の言う通り。
今この瞬間にも彼女の言葉にすら反論の言葉が浮かばない頭でどうして会社の利益の為に思考出来ようか。