夫婦ですが何か?Ⅱ
降参。
完全降伏だと軽く笑って顔を手の甲で覆う。
そうして視界に暗幕を下せば体が振り回されているような遠心力に似た感覚に陥って、追って背中を駆け上る悪寒にゆっくりと目蓋を開けていく。
「・・・食欲はありますか?」
「・・・・食欲はない・・・性欲はあるけど、」
「・・・・冗談言う元気はあるみたいですね」
「冗談じゃないよぉ?寒いし・・・千麻ちゃんの人肌でーー」
「触るな病原菌」
「酷っ・・・」
すっと手を伸ばし彼女の手首を掴もうとすれば、俊敏に交わされ長い睫毛印象大に冷めて細まった目で見下ろされた。
傷ついたような表情で見上げようが彼女に通じる筈もなく、呆れたような溜め息一つ残して俺に背を向け部屋を出る姿。
ぼんやりとその姿を見つめてどこか物悲しい、寂しい感覚を覚えすぐに嘲笑。
子供かよ・・・俺。
それにしても・・・・・怠い。
彼女が不在になればその倦怠感に表情を崩し、両腕で顔を覆うと深く息を吐きだしていく。
しっかりその身に布団を纏っているのに寒いのは何でだ?
でも異様に頭だけは熱い。
一体何度くらい熱があるというのか。
シンと静まり返る部屋にリビングから彼女の声が微かに聞こえて。
どうやら電話しているらしく内容に体調不良など組み込まれている事から俺の欠勤の連絡らしい。
今日中に色々と片付けておきたい仕事もいくつかあったのに、と、嘆いてみても一瞬で熱が引くわけでもなく。
ようやく仕事への懸念を放棄すると覆っていた腕を外して天井を見つめた。
熱があるせいか見慣れているのに別の場所の様で。
あんな色をしていたのか。と、今更な感想抱いて飽きもせず見つめていれば、カチャリと静かに響く開閉音。
それに重たい頭を動かし扉に視線動かせば、トレーに水や薬、体温計を乗せた彼女の入室。
その瞬間に馬鹿みたいに安堵し口元に弧が浮かぶ。
「・・・会社に連絡しておきましたよ」
「ん・・・ありがとう、」
「熱計ってください。・・・薬も、体起こせますか?」
言いながらなんとか体を起こしかけた俺に補助するように伸ばされ支えてくる彼女の手。
途中ぐらりとバランスを崩し倒れかけたのを彼女がしっかりとその身で支えた。
そんな瞬間によぎった記憶の端。
「あっ・・・・」
「・・・どうしました?」
「・・・・・・・いや・・・よく分からない。・・・何でもないや」
「・・・・とりあえず熱計りましょうか?」
俺が倒れないか案じるようにそっと離れた彼女の手がすぐに体温計に伸びONにすると俺に手渡して。