夫婦ですが何か?Ⅱ
クックックッと声を忍ばせて笑ってしまうと、更に怪訝な表情で覗き込む彼女は俺がいかれたとでも思っているのか。
ああ、その表情・・・今もするけど過去もしていた。
変わってないよね、千麻ちゃん。
「千麻ちゃんは千麻ちゃんだなぁ・・・・」
「副社長?」
「本当・・・可愛い・・・」
「高熱のせいですか?言動がおかしくて・・・まぁ、常におかしいですが・・少し不安なんですが?」
本気でそう思って眉根を寄せる彼女を今も小さく笑って、そして思考を巡らせる。
この後・・・どうなったんだっけ?
そう思った瞬間から彼女以外の背景はどこか霞がかったような白い靄に覆われて。
フワフワと風に舞う布のような記憶の端を追いかけ指先を伸ばす。
ほんの少し掠めた拍子に思いだしたのは・・・、
「車だ・・・・」
呟いた瞬間にはその振動を体に感じる。
さっきまで向き合っていた彼女が隣に座っていて、鮮明になりきらない車内に視線を走らせゆっくりと彼女に移していった。
彼女と言えば夕闇に町明かりの景色を見つめていて、なかなかこちらに移らない視線にもどかしくなる。
名前を呼んで意識を引き戻したいのに、なぜか呼んではいけないように感じて。
喉元で熱を持つ彼女の名前の響きに苦しくなる。
それでも限界。
彼女の視線や意識を渇望する。
俺を・・・見て・・・。
「千麻ちゃーー水城さん・・・」
声を響かせ、彼女が反応して振り返るより早く彼女の肩に頭を預けた。
トンと接触した自分の頭が熱くて重くて、うっかり目を閉じれば遠心力。
気持ち悪くなりそうなくらいの頭の不快感に眉根を寄せれば、静かに触れてきた彼女の指先に一瞬で癒される。
取り除く様に額に触れた指先。
目蓋を開ければ指輪のない彼女の左手が視界に入って、その事に可笑しくもないのにクスリと笑う。
当然、
「どうしたのですか?・・・辛くて寄りかかってきたのかと思えば笑いだしたり・・・」
「・・・・・・指輪・・・してないね」
「・・・・・あまり装飾品は好んでつけておりませんが、」
「うん・・・知ってる・・・・そう・・だったよね」
そうだった。
そう・・・彼女は自らアクセサリーの類をつけたりするような女の子じゃなくて。
でも爪はいつも艶があった事は覚えてる。
でも派手な色じゃなくてナチュラルで、一色だけ。
殆ど自然体で、ずっと好感を持っていた。
そんな小さな記憶も浮上させると無意識にその指先に自分の指先を絡めていって、その艶やか爪を確かめるように指の腹で触れていく。