夫婦ですが何か?Ⅱ
可笑しなものだ。
だって実際のこの記憶の時間では彼女に恋心など一切抱いていなかったのだ。
なのに回想し再現する今はしっかりと特別な感情を持って彼女の隣に存在していて。
まるで・・・・時間をやり直しているような。
if・・・。
もし・・・、
この時にすでにこんな感情を抱いていたらこの後迎える時間も変わって来るのだろうと、熱に浮かされた頭でも思ってしまう。
だって、この後・・・。
気がつけばいつの間に渡していたのか、鍵を開錠した彼女に支えられ薄暗い部屋に入りこむ。
記憶にあるんだ。
確かこんな感じだったと。
支えられ先に進んだのはリビングで、とりあえずソファーに座らされると彼女がきびきびと動いて水を汲んで。
そして聞くんだ。
「薬はお持ちですか?」
「・・・・・確か・・・なかった・・・」
そう、この時ストックがなかったんだ。
それで確か千麻ちゃんが・・・、
この瞬間こうであったと記憶を回想すれば、その通りに動きを見せる彼女が自分の鞄を漁りだして。
そして何かを掴むと俺の傍に近寄り水と一緒に手渡してくる。
「・・・・昼用なのであまり強くないでしょうが・・・」
「ありがとう、」
風邪薬はいつも常備しているらしい彼女に感心し、夢の中でも薬を煽ると水で流しこむ。
それでも都合良しにすぐ回復するでもない体調に頭を抱えて目蓋を下して。
体に溜まった熱を吐きだすように息をすれば。
「・・・・・着替え・・・手伝いましょうか?」
「・・・・エッチ、」
「元気であるならもう帰宅しますが、」
「ここが家でしょ?」
「また馬鹿な夢想を・・・・、私には私の帰るべき場所がありますので」
また、ちょっとしたお遊び。
記憶の回想に夢ながらのありもしなかった会話をねじ込んで。
彼女なら言いそうな言葉を自ら想像してこの姿に言わせている。
よくよく考えたら一人芝居だと呆れてしまうのに、過去の彼女との時間が懐かしくて楽しくて・・・。
偽物であると分かっていてもどこか満足してしまう。
でも、記憶の流れも変えたくない。
「・・・・冗談。・・・手伝って・・・」
「・・・・クローゼット、寝室ですよね?まずそちらに移動しましょう」
終始淡々とした無表情で俺の体を支えながら引き起こすと、ゆっくしとした歩調で寝室に誘導する。
支えられても本気でその体重を預けるわけにいかない彼女の小柄の体。
それを感じ今と変わらないと小さく笑んで寝室に向かった。