夫婦ですが何か?Ⅱ



殆ど奇襲。


予想もしていなかった彼女の驚きに満ちた顔を見下ろし笑ってしまう。



「・・・・滋養強壮剤は混ぜてないわよダーリン」


「ああ、じゃあ自然と入りこんじゃったんじゃないかな?千麻ちゃんの愛情ってやつが」


「・・・・次に熱出した時にはご注意を。ヒ素でも混入されているかも」



呆れた眼差しの殺意めいた言葉で切り返し、動じることなく俺の頭を押し返して身を起こす彼女。


それに無理矢理な引き止めはせずに横にごろんと転がるとクスクス笑う。



「もう少し眠ってはいかがですか?」


「ん~?だって起きたばっかだもん、せっかくこうして千麻ちゃんと日中も一緒なのに~」


「何の為の欠勤ですか。子供じゃないんだから大人しく体休めてください」



寝ろ!とばかりに顔にまでかけられた布団。


そこからすぐに顔を出し不満だとわざとらしく表情で示せば、フゥッと息を吐いた彼女がゆっくりベッドに座りなおして俺を見下ろす。




「・・・・傍にいますから、」


「・・・・」


「こんな時くらいしか落ち着いて休めないんですから・・・、今は安静に、」


「・・・・・・・・ありがとう」




そっと前髪を退けるように額に触れてきた彼女の指先。


夢でも似たような瞬間があった。


でも今は現実。


俺の都合良しでない本当の彼女の温もりや言葉に、あの懺悔を許された気がして気が緩んで眉尻が下がった。


これも都合良しな解釈。


彼女は何も知らないというのに。


でも・・・・傍にいてくれてる。


過去も、現在も、俺の夢の中でさえも。






「・・・・傍にいてくれてありがとう」


「・・・・あなたが望むままに、・・・妻ですから、」







高熱によっての記憶の回想。


思わぬタイムトラベルと自分の中の彼女の鮮明さを再確認した日。






『一生傍にいてね・・・千麻ちゃん』






これは夢想じゃなく、


いつかの未来で記憶の回想として


現実になるように願う。


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