夫婦ですが何か?Ⅱ
ーーーーONE NIGHTーーーー
耳に止めどなく流れ続けるざわめき。
テンションの高い声から愚痴から他愛のない会話まで。
それぞれが入り混じって、一つのこの独特の空気を作りだしているのだといつも思う。
普段は抑えている【自分】というものを最大限に解放する瞬間が人は一番イキイキしているのだとも思ってしまう。
各々色々な心情抱いてこうして集まっているんだろうな。と、泡はすでに消えているビールを口にしながら視線を走らせたのは焼き鳥屋の店内。
土曜の夕刻。
まさかおひとり様で飲んでいたわけでもなく、当然向かい側には夫である彼が翠姫につくねを食べさせているといった現状。
それを頬杖をつきながらじっと見つめていれば、視線によってなのかこちらに移った彼の眼差し。
当然自分が見られていた事への疑問を孕めた眼差しに軽く笑みを浮かべて首を傾げる。
でもそんな事知ったこっちゃない愛娘が『もっとくれ』とばかりに彼の髪を掴んで引っ張るのに、苦笑いの慌てた様子で翠姫の口につくねを運ぶ彼。
その光景が微笑ましいやらおかしいやら。
思わず軽く噴き出して彼の父親っぷりを確認しながら一言。
「ところで、子供は作らないのでしょうか?」
さらりとその言葉を告げれば、こちらに移ったグリーンアイが数回その目を瞬かせると間の抜けた表情で言葉の切り替えし。
「・・・・・・・いやん、なんか・・・こんな場所で誘われてる?」
「何を都合のいい解釈を?今までの会話の流れで分かるでしょう?私達でなく榊さんと莉羽さんの事です」
「まぁ、あの2人だしねぇ。夫婦と言っても夫婦じゃないような・・・」
「また離婚する予定だとでも?」
「可能性を上げれば無くはない。逆に子供でも出来れば離婚しないんじゃないかなぁ?と俺は思ってたりするけどね」
苦笑いであの2人を語る彼が翠姫の悪戯を避けながらビールを飲む姿を捉えながら、不意にあの独特な2人の未来予想図を想像しようとして諦めた。
いつだってマイペースで感情の読めない無表情。
そんな2人がこんな風に子供挟んで家族をしている姿はどんなに頑張っても想像しにくいのだ。
それはきっと彼も同様で、だからこそ苦笑いでそれを語ったのだろう。