夫婦ですが何か?Ⅱ
ああ、不機嫌。
いや、私の配慮不足が原因だと重々に承知しているのだけども。
うっかり彼の逆鱗に触れるような存在を口にしてしまえば、あからさまに不機嫌の態度に切り替わってしまった彼にどう反応したものか。
無言でグラスの氷を鳴らしながらハイピッチで中身を流しこむ姿に、【一応】と思い口を開く。
「・・・・元カレと言っても恭司の事ではないですよ」
「・・・・聞いてないし。ってか、元彼は元彼でしょ」
「はぁ・・・、相変わらず心狭いですね」
「はっは~、その事に関しては4畳半の貧乏アパート並に狭い」
「どんな例えですか。そして開き直って言わないでくださいよ」
どれだけ時間を刻もうと、その嫉妬深さだけは成長し緩和させられないらしい彼に呆れを示して溜め息をつく。
しかもそれを自信を持って肯定してくるから性質が悪い。
自分でも気づいていて更にそれを改善する気はないとみえる姿に、いくら正論を向けても無駄であろうと浮上しかけた言葉を流しこむように酒を煽った。
それすらも不愉快の対象らしき彼が更に不愉快そうに眉根を寄せたのには気づいていた。
「なーんか、嫌な感じ・・・」
「どっちがですか?」
「言いたいことあるなら言えばいいじゃん?」
「言ってどうにかなるような事であるなら・・・、聞き入れる大人の姿勢がある人になら飲み込んだ言葉もさらりと言えるものであるでしょうね」
「ムカつくぅ・・・・」
「奇遇ですね。私も類似した感情で向かい合ってます」
軽く口の端をあげての嫌味返し。
私は嫌味に伴う時の方がその口の端よく上げる。と、理解している彼が更に不満を示して舌打ち響かせ。
そしてそんな彼も心にもない弧を口元に浮かべてのここまでの流れなのだ。
さぁ、どう続くのか。
お互いに嫌味な言葉と表情の攻防戦のインターバルの様な一瞬の間。
逸らすことなく視線を絡め、空気を分かっていない翠姫だけが悪戯をしようと腕の中で騒いでみせて。
先攻を切るように響いたのは彼の声。
「・・・何が面白くないか・・・言ってあげようか?」
「是非、」
彼の言葉に『さぁ、どうぞ』的に手を添えると、これ見よがしな溜め息をついた彼が独特な飲み方をしていた酒を一口含んで私を見つめた。