夫婦ですが何か?Ⅱ
そんな彼女の接近に軽く身を引いた彼も完全に拒絶を示したわけじゃなくて。
多分戸惑っての反応。
それを捉えていても遠慮なしに真正面に歩み寄った彼女が身長差ある彼を無表情で見上げる。
対峙する彼は落ち着かない感じに何とか口の端は上げて彼女を見下ろして。
一体どんな会話が成されるのだろうか?と俺もその場を離れられなくて。
シンとした空間に翠姫の声だけが小さく響いた緊張感。
「・・・・・・漫画・・・」
「・・・えっ?」
「・・・・何か漫画貸して。お勧めいくつか抜粋して」
「あ・・・えと・・うん。お勧め上げたら結構膨大になるかもよ?」
「じゃあ・・・あれから貸して。私最後まで読み切らずに別れたし」
「アレって・・・・ああ、はいはい。あれねぇ!!ラスト凄かった!!〇〇がさぁ・・・」
「ちょっ・・待ってよ!!ラスト言われたら楽しく無くなるでしょ!?信じらんない!!」
「だって。ああ~、もうっ・・早く言いてぇ~!!あのラストを共感して盛り上がりたい!!あっ、そう言えば!!あのフィギュアのレアコンプリートしたんだよ千麻!!」
「ウソっ!?だってあれネットで探してもなかなか見つからなかったじゃない!?出品されない〇〇も!?」
「ふふ~、毎日マメにチェックして探していつだったかポッと出現したの即落札だよぉ。いやぁ・・・高かった・・・」
「見たい!!全部そろったの見たい!!」
「・・・うーわぁ・・・・俺の知らない千麻ちゃんがいる」
思わず声を零してしまった瞬間。
まさかの会話の盛り上がりに一瞬思考が追い付かず、追い付いてみても恍惚とした自分の及ばぬ世界に盛り上がる2人の会話には入っていけず。
そして初めて見る愛妻の姿に苦笑い。
成程・・・確かに俺の前の千麻ちゃんではないなぁ。
そしてまず俺といたら出てこないなぁ。
そんな事を理解して失笑。
でも決して嫌味な意味はなく穏やかにそれを感じた一言で。
だけど言われた彼女は我に返って軽く頬を紅潮させている。
多分ここまでエキサイトするつもりは予定になくて、なのにうっかり昔のペースで会話をしてしまい。
それをしっかり俺に見られたという失態。
今・・・心中穏やかじゃないだろうなぁ。