夫婦ですが何か?Ⅱ
ああ、でもやっぱり少し・・・。
妬けてしまうのですよ?
奥様?
新しい住人の介入。
増すのは楽ばかりの賑やかさでいいと本気で願う。
引っ越しの作業は疲労はしたけれど難なく終了し、それでも空の色味はすでに紺に近いグラデーション。
疲れたぁ。と肩を回しながら片手には袋一杯の本を持って、遠くないむしろ近すぎる隣室の我が家に舞い戻った。
『ただいまぁ』と口にしながらリビングに向かって、近づくほどに匂いだけで満たされる夕飯の香り。
それに口の端を上げてリビングの扉を開けば、入って捉えた姿に微妙な笑み継続のまま不動になった。
「・・・・ど、・・・どうしたぁ!?」
「・・・・グスッ・・」
「はぁぁぁ!?ちょっ・・・何で泣いてるぅ!?」
疲労も吹っ飛ぶほどの衝撃的な姿を見せたのは愛しき我が奥様で。
その涙は大幅雷が鳴っている時くらいしか見ることが無いというのに。
何事かと歩み寄っていけば彼女の傍に立つより早く響いた返答。
「っ・・・いえ・・大好きだったキャラが死んでしまって・・・」
「・・・・・・」
全く予想していなかった返答に歩みも止まり、それでもすでに彼女を至近距離から見下ろす位置で。
涙ぐんでいる彼女の傍には積み重なった漫画の山。
ああ、昼間に取り急ぎで拓篤さんが貸してくれた漫画か。
なぁんだ。とばかりに一気に高まっていた緊張が解ければ、同時に倍増して覆いかぶさってくる疲労。
疲れた。
そんな感情で彼女の背後に位置しているソファーにどかりと身を預けると言葉にならない声を響かせ脱力。
「・・・驚いた。・・・何事かと思ったじゃん」
「すみません。読み始めたらすっかりその世界観にハマってしまっていて」
「・・・・漫画なんて読むイメージじゃないのに」
「・・・・拓篤とつきあってからでしょうか?漫画やアニメに囲まれた生活してましたから」
「しかも感情移入して泣いちゃうんだ」
「ええ、だからあなたが危惧したようなセンチメンタルな涙ではありませんので」
「っ・・・」
さすがさすが・・・。
読まれてましたか。