夫婦ですが何か?Ⅱ
『・・・茜・・・・・・』
あっ・・・。
そうだった・・・・。
過去にも・・・・・似たような感覚を・・・・・。
「ダーリン?」
一瞬のフラッシュバック。
脳裏に響いた声と耳に響いた声の相違。
不意に正気に戻ると腕の中の存在を確認するように力を緩めて顔を覗き込む。
でも馬鹿だ。
確認するまでもなく・・・・千麻ちゃんしかいないのに。
多分俺の目が軽く動揺に揺れていたんだと思う。
その揺らめきを彼女が見過ごすはずもなく、疑問の眼差しで俺を見つめ上げていて。
その疑問に眉尻を下げつつも口の端を上げる。
「・・・・どうしました?大丈夫ですか?」
「ん・・・・ちょっとね。思いだしてた・・・」
「何を?」
「俺の・・・・初めての人・・・」
「・・・・・私を抱きしめながら思いだすなんて・・・・浮気ねダーリン」
「っ・・・何でぇ!?ちょっと一瞬思いだしちゃったんだって」
「面白くはないですよね。会話の節々で思いだすなら別ですが。こうして何かの抱擁時に思いだされたそれは記憶の対象の代用品の様で・・・」
言いながら本当に不満そうに表情を歪めて俺の胸を押し返し離れようとする彼女を瞬時に引き戻して阻止。
何とか腕の中に留めても不満顔継続で視線まで逸らされて。
あっ、これ本当にへそ曲げてる。
そう悟った内心が酷く動揺に満ちていく。
「ち、千麻ちゃぁん?」
「・・・・」
「千麻ちゃん、千麻ちゃん、」
「・・・・」
ヤバい・・・目が合わない。
合わせようと甘えるように名前を呼びかけながら顔を覗き込むのに、素早く反対に顔を背けて視線は更に横を向く彼女はご機嫌ななめだ。
うっかり・・・うっかりミス。
確かに彼女の言った通りに抱擁時に他者を脳裏に抱くのは失礼だ。
それを分かっているから軽く自己嫌悪。
しかも・・・何でペロッと口にしちゃったかなぁ俺。
不意にそんな記憶を浮上させてしまったのは類似したような場面と感情があったからだけども。