夫婦ですが何か?Ⅱ
久々に小悪魔な彼の姿だったと閉まった扉を見つめて思い、すぐに熱を与えられた首筋に触れて溜め息。
確実に見える位置。
こんな初夏にハイネック服を着るわけにもいかないし、ストールを撒くかファンデーションの厚塗りか。
打開策を考えながら鏡を覗けばはっきりくっきり鮮明な紅を首筋に捉えて。
分かっていた筈なのに深く溜め息が零れて落胆。
「やっぱり・・・殴っておけばよかった」
今更寛大にも見逃した自分に後悔しながらリビングに戻って、そのままキッチンに入り込もうとした瞬間に耳に入りこむ着信音。
それも携帯ではなくあまり活用されていない家電の方の。
つまりはあまり交流のない相手からの電話だと判断し、その表示を見ても知らない番号。
でも捉えたそれは確実に携帯の番号で、逆にそれに不信を感じて眉を寄せた。
公衆電話や公共の電機会社とかの番号なら理解できる。
なのに知らない携帯番号から自宅に?
いまいち予測の立たない着信でも『早く出ろ』と言わんばかりに鳴り響いて。
怪訝に思いながらもその受話器を持つと耳に当てる。
「っーーー」
『帰国した。・・・・空港』
自分が応答の声を発するより早く耳に響いた機械越しの声。
主語もなく重要部分だけを述べたような言葉に困惑。
一体何の詐欺かと受話器を確認してしまった程。
でも響いたのは女性の声で、その後も特別詐欺的な言葉が続かないものだから今度は自らの声を響かせた。
「・・・あの・・・・どこかにお間違いですか?」
『・・・・・・・・・・・・・・あ、』
「・・・あの?」
『・・・・そっか・・・・忘れてた・・・・』
淡々とした感情の見えない声の響きだと感じる。
それこそ莉羽さんに近い物があるようなそれ。
でも電話先の人物はそれ以上に。
結局問いかけてもそれに関しては返答もなく、まったく意味が分からない言葉を響かせるとプツリと切れた通話。
何なんだ?
間違い?
に、しては何かを理解してこの電話を切ったような。
相手を透視するかのように電話を見つめても特殊能力があるわけでもない私にそんな事は叶わず。
どうもすっきりとしない感情のまま受話器を戻すと今度は現実的な音に焦って後ろを振り返った。