夫婦ですが何か?Ⅱ
何か紙の様なものが散らばるような音に変な動悸に満ちて振り返れば、悪戯盛りの愛娘の暴挙。
多分彼の仕事の書類を見事撒き散らしたりぐしゃぐしゃにして楽し気に笑っている場面で。
一瞬にして電話の内容なんて掻き消され、慌ててそれらの書類を拾い上げていく。
「馬鹿男~・・・・」
普段は翠姫の手に届くような位置に悪戯されて困る物は置かないようにしていて、これはうっかり置いてしまった物なんだろう。
クリアファイルに収まっていたらしい書類を適当に拾い上げていき順不同なままファイルにしまう。
そして翠姫の手が届かないテーブルの上に置こうと移動して、不意にファイルに視線を落とせば自分の意識なしに書類の内容の確認。
「【SANCTUARY】か・・・」
ふぅん、と記憶にしっかりとあるその名前と仕事内容を浮上させて、どんな仕事なのかと興味を抱く。
【SANCTUARY】
元々の発起と大道寺の繋がりは当時の両社のトップが友人同士だったやらなんやら。
その内容はブライダル衣裳から始まり今現在は一般的な服のデザイン展開もしている。
今現在はその発端の後継者である暁月 蓮が基盤で、その周りを固めるように蓮さんの子供たちが各々分野を補っている。
長男と次男はデザインからパタンナーまで器用にこなして、長女は専属モデルとしてその身を置いて。
この家系がこれまた・・・・大道寺に負けず劣らず美麗なのよね。
思い出しても鮮明な美を強調してくる暁月の面々。
性格ばかりは皆独特な個性ある人間ばかりだと記憶している。
長男は一見クールにも見える鉄壁の無口で無表情。
本当は単なる天然で必要な事以外興味のない人。
次男は長男とは違う無表情で軽く威圧感じる近寄りがたい人。
でも実際はそんな事なく気さくで一番まともな感じがする。
そして今は雛華さんの双子の妹さんの旦那様。
長女は・・・・・。
よく知らないや・・・。
不意に回想していた兄弟の記憶に長女のそれも付け加えようと回想したけれど、その姿だけしか印象強烈に思いだせず。
よくよく考えれば撮影時にその姿を何度か確認しただけで、暁月家系の中で一番自分とは接点がなかったと思いだした。
それでも微々たる記憶を浮上させれば・・・・。
笑うのは・・・カメラの前でだけと言っていい程。
レンズから外れた女神は一瞬ですべての感情を捨てたかのように無表情になるのだ。