夫婦ですが何か?Ⅱ




かといって今現在彼女の後釜になるような存在も聞いてはいない。


まぁ、結論イベントがあるなら彼女がするのだろう。と自分の答えに納得してそのファイルをカウンターに置いた。


そんなタイミングを図ったように響いたチャイムの音に時計を確認してからくるりと向きを玄関に向ける。


まだ8時前。


どう考えてもまだ街中も賑わっているのは出勤途中の人間ばかりのその時間。


だけども来訪者の姿は容易に予測が立ち、逆に『しまった』と自分のうっかりミスに眉尻を下げて。


再度鳴り響いた急かすような音に扉を開ければ、もっと急かすように恍惚とした表情の拓篤がそこにいた。



「さ、行こう!」


「ちょっ・・・ごめ、まだ出れなーー」


「今すぐ行かないと!これでもかなり出遅れてるんだよ!?」


「うんうん・・・うっかりね・・・一般常識内での思考で忘れてたのよ・・・・・・あなたとの【買い物】は並ぶ時間のが早くて長いって・・・・」



何てことはない。


彼もヤキモチを妬くほどの外出でもない内容。


単に拓篤の趣味の範囲の限定フィギュアを入手するのに人手が必要で駆り出されたに過ぎないのだ。


変わってない・・・。


普段はボケっとした感じにフワフワと笑ってそこに存在しているくせに、こう言う時ばかりは率先して動きその目は瞳孔開きっぱなしで。


今も『早く早く!!』と責め立てる眼差しに圧され、足早にリビングに戻ると抱っこひもで翠姫を括り鞄を雑に掴んで玄関に急いだ。


靴も適当。


無難にどんな服にも支障のない黒い靴を適当に履いて、ソワソワとする拓篤を横目に急いで施錠するとエレベーターホールに競歩。


その位しないと痺れを切らした拓篤に腕を掴まれ引きずられそうだったから。


エレベータのボタンもタタタンと連打する姿を何となく傍観して、その扉が動きだすと開ききるより早く身を滑り込ませた。


何故常にその位の行動力がない?


そう問いかけたくなるが、これが彼なのだと自分に言い聞かせ小さな箱に身を投じれば、入るなりすぐに閉まった扉と下降する浮遊感。


軽く呆れた眼差しで操作盤の前に立つ彼を見上げれば、視線はこちらに無く下降する数字を嬉々とした目で見つめている横顔。


ああ、もう・・・。



「ふっ・・・」


「・・・ん?な、何?」


「ううん・・・変わってないなぁ。って、」



思わず噴き出してしまうと反応した彼がさすがに苦笑いで振り返り疑問を響かせたのに返答。



< 348 / 574 >

この作品をシェア

pagetop