夫婦ですが何か?Ⅱ
Side 茜
「茜ちゃんも随分幸せボケしたよねぇ」
さらりと向けられた言葉に軽く悪意を感じて視線を動かすと、その声を響かせた相手はその視線を書類に落としたままで。
見つめていてもこちらに一向に移らないそれに諦め、先に自分の声を響かせる。
「ひーたん?何か俺と千麻ちゃんの関係に物申したいのかな?」
「物申す気はないけど・・・・・いやに【らしく】ないってか・・・寛大っていうか・・・牙が取れた?」
「理解ある夫。素晴らしい信頼関係じゃないか」
「・・・元カレと大っぴらデートを許すのは理解と言うより無関心?それとも・・・・過信かな」
「・・・・い、一応・・・自己主張として所有印的な物は・・・」
「重ね押しされて帰って来ないといいけどね」
「・・・・・」
こいつ・・・歳重ねる毎に可愛くねぇ。
そんな悪態を心の中で同い年とはいえ叔父である雛華について。
それでも軽く的を得ているような言葉に僅かばかりにも心がざわめく。
それを見透かしたように溜め息をついた雛華が持っていた書類をデスクに置くとようやく俺と類似するグリーンアイをこちらに向けた。
「・・・・忘れてはないだろうけど・・・・過去に一度大事な人横取りされてるんだからね?茜ちゃん」
「お前が言うか!?盗ったお前が言う!?」
「・・・・そんな経験あるんだからもっと慎重に警戒すべきだよ」
「さらっと流すな・・・自分の都合の悪いところだけ」
「真面目に、」
「はい、」
言葉の通りにスッと目を細めてそれを求める雛華に馬鹿正直に返事してまっすぐにその顔を捉えて対峙する。
真面目に聞く姿勢。
それを理解した雛華が小さく息を吐くとゆっくりその声を響かせる。
「・・・・話を聞いていて、本来警戒心強い茜ちゃんが危険を感じない程相手が良い人なのは良く分かったよ」
「うん・・・、」
「まぁ、・・・まず千麻ちゃんがそんな非常識な事しでかさないと思うし、その人も一般常識備わってるようだけど。
・・・・良くも悪くも何があるのか分からないのが男女の仲でしょ?」
「お前の口から恋愛に関してそんな言葉を聞く様になるとは」
「茜、」
「・・・・」
【ちゃん】が取れた名前呼びに俺に言いたい事はよく分かった。
だからこそあえて無言でそれを示して返事とする。