夫婦ですが何か?Ⅱ
雛華が余計な事を言わなければいい。
そんな懇願も含めて雛華を見つめれば、相変わらずのやる気ない無表情で俺を見つめ返し数回だけ小さく頷く。
「何ですか?お2人だけの秘め事でしょうか?」
「ううん、ただ・・・茜ちゃんの若気の至りというか、青春の記憶なんだよね」
「雛華ぁ!!」
「それはそれは・・・・そんな楽し気なネタを私には内緒で?」
結局殆ど言ってるんじゃないか!?
衝撃的な叔父の裏切りに軽く信頼関係にヒビが入った気がした一瞬。
当然俄然興味を示した性質の悪い男の笑みに心ではすでに涙を流して。
どうこの場面を切り抜けようと焦った頭で思案していれば。
不意に耳に響く扉のノック。
3人で振り返れば可愛らしい秘書課の女子がマニュアル通りに頭を下げての入室。
「失礼します。SANCTUARYの暁月様がいらっしゃいました」
その言葉に多分俺も雛華も【暁月】の誰だろうか?と思った筈。
でもその答えはすぐに追って入室してきた姿で判明。
スッと入りこんできたのはこの社内では目立ったであろうラフな私服姿の長身の男。
長く黒い前髪を両サイドに軽く流し雛華動揺に無表情なその顔立ちは女でなくとも感嘆の声を上げそうな。
生気があるのかないのか、長い睫毛の奥の目はカラコンではあるけれど俺と雛華に類似するグリーンアイ。
その目の色だけで暁月の誰であるかは明確なんだ。
「おおっ、なんか久しぶり翠君」
捉えた姿に軽い感じに声をかければ、暁月家の長男である彼がその声に返答の声は響かせずにぐるりと視線を部屋に走らせる。
一体何の為のそれなのか?と、3人でただ漠然とその姿を見つめていれば。
「はぁ・・・・」
次に弾かれたのは深く重い溜め息。
そして無表情に珍しく刻んだ眉間の皺。
一体何事でどんな理由のそれかと困惑していると、不意に落ちていた視線がスッと上がる。
同時に動き出した姿の動向を黙って見つめ、その足が確実に俺に向いていると気がついた瞬間に焦った。
でも逃げ出す間もなく寄りかかっていた雛華のデスクに更に追い詰められ、俺より僅かに長身の男に威圧的に見下ろされた。