夫婦ですが何か?Ⅱ
マンションの入り口の階段に腰を下ろしサングラスでその顔を覆っている女性、その傍にはスーツケースが存在していて。
座っていてもその体は女性にしては長身だろうと推測する。
長い長い黒髪がふわりふわりと風で遊ばれていて、彼女と言えば退屈そうに頬杖をついてどこかを眺めている。
住人・・・ではない。
そう予測しながら距離を縮めて、相手もその接近に気がつくほどの距離あいになった時。
フッとその視線がこちらに移った気がした。
確信がなかったのはサングラスでよく分からなかったから。
一体誰だろうとこちらもチラリとその顔を捉えたタイミング。
「あっ・・・・・」
あれ?
声を響かせたのは彼女の方で、でもその声音にどこか脳内の記憶がくすぐられる。
聞いた響きだ。
過去にも・・・違う、もっと最近・・・かなり鮮明な記憶の中で。
そんな感覚に満ちて思わず足を止めて彼女を見つめていれば。
『あっ』と響かせたまま口を開きながら、半信半疑でゆっくり私を指さした彼女がその身を起こす。
やはり長身。
そしてスッと折れそうに細い体にも記憶がある。
近い記憶で回想した。
長い腰まである黒髪、細身で肌の白い体。
聞き覚えのある声。
ああ、彼女は・・・。
でも・・・何故?
もう答えは頭に浮かんでいて、でも今度はその存在理由が分からないと困惑して。
そんな私にどうやら彼女も確信を持ったらしい。
私を指していた指をスッとサングラスに絡軽く下げてその目を覗かせて。
捉えたのは薄紅の瞳。
「・・・・・・そうだ・・・・・茜の・・・秘書さん?」
「・・い、・・今は・・・一応妻でもありますが・・・、
・・・・・・・あの・・・何でここに?・・・紅さん」
どうやら彼女の記憶にも自分の姿は記録されていたらしい。
でも薄ら、半信半疑であるほどに薄らと。
別にその事に不満や憤りなんかはなく、仕事のつきあいでしか関係していないのだからそんなものだろうと自然に括れる。
今そんな事より疑問なのは何故彼女がこのマンションの前で座りこんでいたか?という部分で。
濁すことなくそれを問いかければ、表情を動かさずどこかぼんやりとした無表情で空気を見つめる彼女がポツリ。
「茜の家だから」
すみません。
まったく意味が分かりません。