夫婦ですが何か?Ⅱ
「そんなに・・・俺に悩みを打ち明けて縋りたくない?」
「・・・縋るような悩みを抱いているつもりはないです」
「じゃあ、自分には【無防備】な千麻ちゃんの口から隣の【榊】の名前が出てきたのは何でさ?」
「まさにその【無防備】を彼に指摘されたからです」
蛇の様にしつこい。
こうしていつまでも食いついて絡んでくるという事はどうやら彼にとって【榊】という存在は理由あっての懸念対象なのだろう。
だとしたら面倒だと半ば自棄にも近い形で答えた言葉は失敗だったと理解する。
そう、理解したのは苛立ち明確な力で壁に縫い付けられた瞬間で。
眼光鋭く、至近距離からの威圧を小柄な体に下ろされた。
そしていつもの・・・、さっきまでの柔らかさ皆無な低い声音で事の確認。
「【無防備】の・・・指摘?」
「・・・・・」
「指摘されたって・・・・、指摘されるような場面で一緒だったって事だよね?」
ああ、形ばかりの笑みが攻撃的だ。
チクリチクリと一言一言に棘を忍ばせて、その痛みに耐え切れず懺悔することを図っているような。
独占欲のなせる彼の時々の狂気。
まぁ・・・もう怯む対象でもないのですが。
「・・・・まぁ、・・少しばかり偶然の成り行きで彼の前で露出がいきすぎてしまう場面がありまして、」
「・・・はっ?・・・・何それ?」
「説明したら長くなりますし・・・、もういいじゃないですか?こうして応用効かせて露出も軽減させたでしょう?」
もう問題解決だとタイムラインの修正を試みようと動きを見せたのに、そんな生易しい彼である筈もなく。
かと言っても想定内。
素早く更なる力で壁に縫い付けられ、恐怖より早く深く溜め息が零れた。
そして睨み上げる。
こういう時は危険に感じる鋭いグリーンアイを。
「・・・仕事・・・遅れますよ?」
「仕事に遅刻するより、奥さんの危機感のない事の方が恐怖の対象だよね」
「何を大げさな・・・、次に会ったときには今あなたがしている様に彼が迫ってくるとでも?被害妄想も大概にしないと逆に訴えられまーー」
ドンッと響いた音に言葉が摘ままれて、さすがに畏怖した彼の気迫に双眸を見開き不動になった。
強く音を響かせ殴られた自分の頭の横の壁。
彼が感情的に怒るのは何度か目の当たりにしているからそう驚く対象でもなかったのに・・・・驚いた。