夫婦ですが何か?Ⅱ
ああ・・・、
美味しい。
美味しいです。
何一つ貶す要素のない美味たるスープが空腹を満たして感情は乱す。
楽し気なやり取りが耳触りで。
キッチンがそちらとこちらをはっきりと隔てているような。
「千麻ちゃん、」
「・・・・・はい、」
じんわりと負の感情に浸っていく自分を成す術なくぼんやりと受け入れていれば、自分とは違って明るい口調で呼びかけてくる声に意識を戻す。
そして捉えた笑みは嫌味なく嬉々とした彼の表情なのに・・・。
どうしよう。
不快・・・。
それでも彼は今私に悪意を示したわけではないのだ。
だからこそその心を押し殺して平常装って返事を返した。
・・・つもりだ。
どうやら上手い事その一言は平常を取り繕えたらしく、彼の笑みも継続に楽し気にその声は続いて。
「どう?美味しいでしょ?」
そんな自慢げに・・・、
まるで・・・自分が成したかのように賞賛を求めて笑うんですね。
同調求めて、屈託のない笑みで、・・・純粋に褒めてほしいと子供のように。
そんな横で翠姫を抱き上げる紅さんを捉えて。
あっ・・・・、
安定したと・・・・持ち直したと思ったプライドの・・・。
私の居場所の崩壊・・・。
そんな予兆の様なミシミシとした音が自分の中で響いて苦しい。
「はい・・・」
「・・・・千麻ちゃ・・ん?」
「・・・・はい・・・おい・・しいです・・・・」
「えっ・・なんーー」
「美味しい・・・です・・よ」
「っ・・・」
しまった。・・・と思って。
立て直そうと口元の弧を強めて。
それでもどんどん表情曇らせる彼の姿に自分の姿を惨めに感じ取る。
きっと醜悪。
『美味しい』と口にしながら、その事実を不満に思って。
そんな自分の醜さを隠そうと口元の弧を強めたくせに、誤魔化しきれなかった感情が目から零れて頬を伝って。
なんて馬鹿なループ。
昨日の二の舞。
誰も競って挑んで来ているわけじゃないのに、私が勝手に一人で焦って苛立って迷走して。
一人相撲の嫉妬に悶えてまた彼を追いこんでいる。