夫婦ですが何か?Ⅱ
彼は暴力的ではない人だ。
高まった憤りも大抵は巧みな言葉で相手を言い伏せて、絶対に怒りを暴力に示す人じゃない。
少なからず、悪意の対象を除けば。
だからこそ、どこか力任せにもどかしさを示した行為に自分の憤りを吹き飛ばされた。
同時に防御も崩されて、見事怯んだ表情で見上げてグリーンアイを捉えれば。
私の表情に彼も憤りは飛んだらしくそれでももどかしげに表情を歪め、抱いている何かを深く息と共に吐きだすと脱力。
トンと私の肩に預けられた頭。
心音が煩い耳にゆっくりと攻撃性のない彼の声音が入りこんで許しを請う。
「ごめん・・・・・・、驚かせた・・・」
「・・・・いえ、・・・・驚きましたけど・・・・」
「・・・・・・・・・・っ・・・俺・・」
堪え切れなくなった。
そんな息の飲み方をすると強いけど柔らかい力で私を引き寄せその身に包み込む彼。
怒りは皆無。
でもチラチラと垣間見るものは純粋な愛情ではなく・・・、
どこか不安な・・・。
「・・・・・・・・千麻ちゃんが・・・大切なんですよ、」
「・・・・・はい、」
「可能なら・・・ポケットサイズに小さくして持ち歩きたいくらい、」
「・・・・・」
あっ・・・ヤバい。
「しまって・・・いつでもこの手に取りだせるような・・・」
ダメだ・・・限界・・・・。
「っーーーーーふはっ・・・」
「・・って・・・何で!?何でいきなり噴き出して声殺して笑ってんの!?」
そう、彼は至って真面目に、むしろもどかしく切ない感情のままにそれを告げていただろうに。
そしてそれを理解していたからこそ不謹慎にも浮上した事に歯止めをかけて堪えていたのに決壊。
思いっきり噴き出した後に下を向いて何とか声は噛み殺して肩を揺らすと、当然困惑の後に不愉快に眉根寄せた彼の突っ込み。
すみません。
これは確実に私が悪いんですが・・・。
「千麻ちゃぁん?」
「ふっ・・・あはは・・ははっ・・」
「チッ・・本気で笑ったよ、とうとう・・・」
「す、すみま・・あははははは・・・・」
声に出してしまえばもう遠慮もなく、場違いな笑い声響いた現状に彼も脱力し呆れた表情で向かい合うキッチンにその身を寄りかからせた。