夫婦ですが何か?Ⅱ
「っ・・・ちょっ、ちょっと、ちょっと、待とう!!待ってよ、」
歩みを緩めるでもなく、仕事の開始とばかりに自分の髪をまとめあげクリップで留めて。
すでに寝室の扉の目前。
それを遮る様に滑り込んで行く手を遮った彼を無表情で見上げて。
『何か?』
そんな事を視線で返せば理解している彼の苦悶の表情。
「ね?俺、今現在本当にやましい感情ないのよ?」
「存じてますが?」
「紅ちゃんのアレも本当に天然で、」
「存じてます。それが何か?」
「っ・・・だからっ、・・・・絶対におかしいって。俺と千麻ちゃんの関係がこんな破綻する必要なんてーー
・・・っ・・ねぇ、愛してるんだよ?」
「・・・存じてますが?」
だから何でしょうか?
そんな風に片眉をあげて怪訝を示して、もどかしく揺れるグリーンアイを見つめて。
感じるのは期待。
でも、何に?
期待されても困る。
期待に答えたくて必死で従順だった私は疲労に倒れて不在なのだ。
あなたの求める愛おしいハニーは、その身を隠して期限未定の休息中なのですよ。
そして健在する私には甘ったるい感情や言葉に揺れ動く事が薄い。
「本当に仕事に遅れますよ」
「っ・・千麻ちゃんの分からずやぁ!!」
「何を子供みたいな、」
「くっそ、そんなつれない態度とられたって負けるもんか!」
「そうですか。何やら熱い勢いお持ちの内に仕事に励んできて下さい」
「フ・・フフッ、苦節数年、プラトニックに千麻ちゃんに純愛捧げた俺を舐めんなぁ!どんな言葉も反応も耐え抜いて、鬱陶しいくらいの愛情押し付けてやる!!」
「・・・身体的にはプラトニックと言い切れない事実、最近発覚してましたけどね」
「っ・・・」
トドメの一言。
熱く意気込み吠えてくる彼にさらりと感情もなく伝家の宝刀を抜いてみせれば、面白いほど悔しそうに押し黙った姿。
その姿にはうっかり、
「っ・・・、今、ちょっと笑った!?笑ったよね!?」
「・・・そりゃあ、笑ますよ?人間ですもの」
「千麻ちゃん、千麻ちゃん、千麻ちゃーー」
「煩いです。さっさと唯一の利点な能力発揮して稼いできてください」
「唯一って酷っ、もっとあるじゃん!?美点だらけっしょ!?」
「・・・今現在は鬱陶しいばかりかと」
「ううっ、酷い・・・、ねぇ?俺夫よ?ダーリンよ?千麻ちゃんは奥さんでしょ?」
命一杯、同情集める様にその顔に憂いを乗せて覗きこみの哀願。