夫婦ですが何か?Ⅱ



そんな彼を静かに見つめ感情揺らすでもなく唇から弾いたのは、



「・・・夫婦ですが何か?」


「・・・デジャーヴ・・」



懐かしくも微笑ましくはない響き。


彼にとっては特にであろうこの言葉は、順風満帆であった人生ゲームの大暴落。


【ふりだし】に戻る?


笑う場面ではないであろうに、笑うしかなかったらしい彼の苦笑いの落胆を平然と見つめ、更なる追い打ち。



「面倒で理不尽で本当に不甲斐ない私だと僅かばかりに非を認めた上でも言い訳すれば、」


「・・・うん、」


「今、無理に感情的な自分を維持して、無意味に妬いて苛立ってを繰り返してたらあなたを、」


「う、うん、」


「ふりだしどころか嫌いになりそうで、」


「さらりと恐い事言わないでぇ・・・」


「はい、流石にそれは私としても現状望ましくないので、この様な自主的な措置をとってのスタイルです」


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・はぁ・・、うん、何か色々と自論をかましたい部分はあるけども・・・。とりあえず差し迫った時間優先に仕事に行ってこようと思います」


「はい、いってらっしゃいませ」



言い足りない。


そんな雰囲気たっぷりに、それでも言いたかった言葉を苦悶の表情で飲み込んだ彼。


すみません。


つくづく・・・取り扱いの面倒な女ですよね。


自分が無茶苦茶で、他者から見たら意味がわからない、理屈に合わないのもしっかりと理解している。


そんな女に気の毒にも惚れこんで、痛い思いをしても2度目の結婚をした彼。


賞賛すべきか?


今も散々な仕打ち受けた筈なのに、苦悶の表情を浮かべても憤りなんかは見せない彼。


それどころか『仕方がない』と、受け入れ諦めてきている感じも見受けられて。


ふうっと何か吹っ切る様に吐き出された息の音と、彼なりに動揺収めたグリーンアイ。


一瞬真っ直ぐに対峙して、でも次の瞬間には近すぎて捉えられなくなって。


代わりに絡んだ唇の感触に流石に驚き双眸を見開き。


軽い接触を成しただけで、静かに離れて行く距離で再度彼のグリーンアイとぶつかった。


顔の距離、15センチ程だろうか?



「・・・とにかくさ、」


「・・・はい、」


「経験談。今グタグタ自論を熱く語ろうと千麻ちゃんにはマイナスにしか働かないと、応用働かす俺が言えるのは、」


「はい、」


「・・・そう簡単に俺に【嫌われられない】から覚悟して、」


「・・・」


「キチガイでどMな俺は千麻ちゃん限定で許容範囲が際限ないんです。どんな悪態つかれても嫌味を言われても・・・・こんな愛情無いように【見せかけた】態度でさえも、」


「・・・・」


「つまるところ『大好きダーリン』なんて深い愛情感じて仕方ないのです」


「・・・・」


「・・・ねぇ、何?その無表情の拍手」



賞賛です。


馬鹿で、不憫で、都合良しな思考で、


でも、愛情深いダーリンへの。

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