夫婦ですが何か?Ⅱ
Side 茜
溜め込んで溜め込んで、自分ではどうにもならない葛藤の塊を玄関扉を背後にした瞬間に、深く長く溜め息として吐き出し落胆。
何故こんな面倒な事態に陥ったのかと、額を押さえて目蓋を下ろして。
だって、
まさか、
千麻ちゃんが今更あんな強烈な嫉妬を抱くなんて予想も予測もしてなかったんだ。
まして、元カノでもない紅ちゃんに。
本当の元カノである芹ちゃんにだってあんな余裕のない反応をした事ないのに。
何がその引き金か、自分で真剣に探ってみても答えが見つからず。
確かに、確かにだ。
あの出だしであるような、自分の意ではないにしても交わしてしまったキスも元凶のひとつだろう。
でもさ、・・・本当に微塵も恋心的な物抱いてないんだよ、千麻ちゃん。
分かってる。
多分、彼女の問題もそこではなくて、何か別の引っかかりがあって、俺と紅ちゃんの親密さに言いようのない嫉妬を抱いている。
でも・・・何に?
結局その問いに回帰して、浮かぶ言葉は、
「奥深いぜ・・・乙女心、」
その部分だけは理解したつもりで出来ていないと、嘆きながら確かめる様に玄関扉を振り返って見つめて。
一体、自分が不在の室内ではどんな空気で満ちているのかと若干の不安。
まさか・・・、取っ組み合いなんてないよな?
そんな一抹の不安から身動き出来ずに無意味に扉を見つめていれば。
「あっ・・・、」
不意に響いたその声に、スッと視線を動かせば捉えたのは昨日我が家の一悶着に巻き込まれた隣人。
奥様の乙女心くすぐった過去のある、
「拓篤さん、」
「・・・」
「・・・ちょっ、ちょっ、ちょーー!!何で逃げるの?隠れるの!?」
「いや、何か・・・うん、ごめん・・・」
「な、何っ、何いきなりーーー・・・あっ、」
もしかして、
「・・・夕べの壁ドンにーー」
「うわぁぁぁ、やっぱり千麻から聞いたんだぁ!?その後笑い話になってたんだぁ!?調子にのってカッコつけてゴメン〜」
いや、・・・聞いたと言うより偶然盗み見した。
とは、
・・・今のこの人に言ったら羞恥心で死にそうだから言わないでおこうか。