夫婦ですが何か?Ⅱ
目があった瞬間に気まずそうな笑みを浮かべながら、自室に貝の様に引っ込み始めた姿を掴み出して。
そうして対峙すれば問いかけるより早く返された謝罪。
赤面で。
一瞬何の事だと眉を寄せ、すぐに浮かんだ夕べの去り際。
確かに、【らしく】なく男を見せていた姿。
我が愛しの奥様を扉に追いやって。
その事で少なからず俺も嫉妬を彼女に向けていた筈なのに、上回る彼女のそれに呑まれて打ち砕かれて。
嬉しいやら悲しいやら、彼女のまさかの俺への愛情深さに、変に拗れて【ふりだし】ときたもんだ。
うっかり思い出した現状に、無意識に溜め息零して俯けば、戸惑いながら覗きこむ拓篤さんの不安顔。
「えと・・茜くん?だ、大丈夫?」
「・・・いや、・・・絶賛迷走中というか。・・・微笑ましくない夫婦漫才中と言うか、・・・家庭内抗争と言うか、」
「えっ!?僕の壁ドンのせいっ!?」
「・・・いや、残念ながら拓篤さんの壁ドンは微塵も影響してないかと、」
「は、ははっ・・・だよ・・ねぇ・・、うん・・・良かった・・・」
「・・・・・拓篤さん、」
「ん?何?」
「・・・正直にさ、」
「ん?うん?」
「・・・・焼け木杭、」
「っ・・・」
「・・・」
「・・・」
本当、
この人、
悲しいくらい嘘とか隠し事出来ない人だ。
どこか残念さを感じた響きと表情は明らかで、鋭くない人でも分かってしまいそうな。
嘘だろ?と、複雑な面持ちで匂わせた言葉で探りをいれれば、
明確。
瞬時に泳いだ目と赤みを増した顔。
言葉なんかなくても物語る事実に、更なる問題の上乗せを感じて泣きたくなる。
「拓篤さぁん!?信じてたのにっ!!」
「だ、だって、だって!!千麻ってば相変わらず千麻らしくて可愛いんだもん!千麻だったんだもん!」
「で?何?俺からかっ攫おうとか考えてます?」
「むっ、無理無理無理!滅相もない・・・、そ、そんな度胸も自信もないし・・・、千麻を今の幸せから引っ張りだそうなんで絶対に思わないよ、」
懸念事項をすかさず牽制の眼差しで確認を入れれば、否定を示して必死に顔の前で両手を振って。
あり得ない、更々無い、そんな否定を示し力なく笑みを浮かべる姿。
その彼からは確かに懸念する危険さは感じず、それでも再確認の様に見つめていると。