夫婦ですが何か?Ⅱ
一瞬でさっきの立場の入れ替えで、壁に追いやられ威圧的な視線で縫い付けられた自分。
対峙する拓篤さんの本心からの鋭い表情や言葉に言い返せず、言った本人も強気ではあるけれど立場を弁えての物言い。
そして最終的には勢いが緩んでいき、自分の中でじわじわと熱を持っていた物を消火させたらしい拓篤さんが、口元を手の甲で隠すように押さえながらその身を離して俺を解放する。
解放されたのに唖然と壁に張り付いて、今も何やら葛藤しているらしい姿を見つめて。
お互いに数秒の沈黙。
そして先に声を発したのは。
「うん・・・うん、ごめん・・・」
「・・・・」
「また・・・らしくない事しちゃったよ・・・、ちゃんと・・・分かってるから・・・ごめんね、茜君」
取り繕うように弧を描いた口元。
でも困ったように微笑む姿に何を返していいのか言葉が浮かばず、それでも何かを発しようと唇を動かしてみるのに音は出ない。
そんな俺の代わりに、
「・・・でも、・・・なんか、昨日から相当我慢して耐えてたと思うから」
「・・・・うん、」
「・・・・・・っ・・・千麻の・・・作るご飯」
「うん?」
躊躇いながらも意を決して。
そんな風に、言葉に未だに躊躇いを乗せながら弾かれていく声に集中して疑問の眼差しを向けてみる。
何を言いたいのか。
何故ここまで躊躇っているのか、躊躇っているという事はあまり自分にいい内容とは思えない。
そう理解していても聞かなければ余計に後悔しそうで。
少しだけ心音が上がる。
そして薄々・・・感づいてしまった。
「っ・・・美味しかったって・・・」
「・・・」
「美味しかったから・・・・、そう簡単に・・・捨てたら・・・ダメだよって・・伝えておいて」
「・・・・・・・・」
ふわりと優しいけど残酷な笑み。
それは・・・千麻ちゃんに向けてというより・・・。
俺にどうしても伝えたかった昨日の事実ですよね。
キリリッと胸が痛む。
でも・・・だとしたら、
昨日の千麻ちゃんはどれくらい痛くて苦しかったのかな?
ぼんやりとまともに働かない頭でそんな事を思って、視線をゆっくりと自室の扉に向けていく。
そんな俺に戸惑いながらも弾かれた拓篤さんの一言。