夫婦ですが何か?Ⅱ
いっそ・・・、
いっそ、
「・・・・・紅さんは、・・・私に悪意を抱いていませんか?」
何を聞いているのか。
声にして響かせたそれに自分でも突っ込み。
問われた彼女もさすがに僅かにその表情に驚きを見せて私に視線を移したと思う。
馬鹿な私。
少しでもそうであるなら楽だと思ってしまって。
その感情のままに考えなしに言葉を響かせて。
醜い自分を露にした言動に羞恥心が駆け上って、グッと口を閉ざすと視線を落とした。
彼女は・・・どんな表情なのか。
さすがに気を悪くしただろうか。
そんな事が頭を巡って、堪え切れない感情に悶えていれば。
「・・・・・・私の茜だったのに、」
「・・・・」
耳に入りこんだ声に思わず顔を上げれば、片頬をつきながら無表情に私を見つめる彼女と対峙して。
「盗られちゃったなぁ。・・・・って、感覚はあるかな・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・返して?」
「っ・・・」
フッと無表情が切り替えたのは聖母の様な微笑み。
まるで撮影時にカメラに向けるような魅力的な笑み。
でも付属した言葉や、それを示して差し出された手に息が止まる。
返してくれと、差し出された手。
その手と笑みと、交互に視線が走って、それ以外の行動は出来ず。
不動のまま彼女を見つめていれば、静かにその笑みは消えていき、
「なんて・・・、冗談。・・・誰の物だとか自分の物だとか、軽薄な独占欲は抱いてないから安心して、」
「っ・・・」
ほんの冗談。
そんな感覚で弾かれた言葉と無感情な表情。
心配するような事ではないと示してくれていたのかもしれない。
でも・・・、
逆に・・・、
惨めです。
そんな『軽薄な独占欲』でいっぱいの私はどうなるんでしょうか?
複雑な心情で不動になっている私を他所に、時計を確認してスッとその身を動かした彼女。
「私、今日は色々な場所に挨拶回りしてくるから。夕方にはまたここに戻ってくると思う」
「・・・・はい、」
何事もなかったかのようにマイペースに動きだした彼女に返事だけ返して。
馬鹿みたいにキッチンに突っ立って、その耳に玄関扉の開閉音を流しこむ。
彼女の気配の消えた、
いつもの空間だ。
自分と翠姫だけの日中。
なのに・・・、
自分の感情だけが迷走し続けて。