夫婦ですが何か?Ⅱ
朝から何をしているのか。
確かに彼の怒り買い喧嘩とも言えそうな空気になりかけたのに、絶妙な感覚のズレで気がつけば甘ささえ感じそうな彼の腕の中だ。
つくづく依存している。
昔であるならタイムライン優先でこんな時間の無駄であるような抱擁なんていともたやすく振りほどいていたというのに。
チラリと確認した時計の針は無情にも大幅な遅延を示していて、すぐにでもロスを埋めるべく促さなければと思うのに。
無意識に近い形で彼の衣服の背中を掴む。
そうして更に密着させるように自ら顔を埋めてその匂いに安堵する。
無駄なんかじゃない、熱と抱擁・・・。
でも、私よりも安堵を求めているのは・・・、
「・・・・分かりました」
「・・・ん?・・・何が?」
「妻として・・・・夫を不安にさせるような行為は控えます」
「・・・・」
「あなたにとって最高の秘書であれたのですもの。・・・今度は妻としてそう認めてもらえるように努力する場面なのでしょう?」
埋めていた顔を上げるとニッと口の端をあげて見せた。
望むままに、不安を抱かぬように【無防備】を返上してみせると。
その意思通じれば一瞬呆気にとられた姿がフッと力が抜けたように微笑んで、安堵示したそれは緩みすぎて幼い子供の笑みにも類似する。
「やっぱり・・・千麻ちゃんは有能だ」
「そうでしょうとも。私は性格上これ以上ない結果を得られるまでは納得しない女なのですよ。
・・・・あなたが一番の理解者でしょうけれども、」
知っているでしょう?
そんな風に強気に微笑んでクスリと笑うと、小さく噴き出した彼がウンウンと数回頷いて。
ようやく空気も平常に戻ったタイミングにトンと指先で彼の胸をついた。
「さぁ・・・甘い夫婦の時間は程々に・・・。
・・・・・仕事・・・お願いします。・・・旦那様」
懐かしい響きでようやく仕事に向かっての動きを促せば、そのタイミング図ったように声遠く、それでも火がついたように泣き始めた翠姫の声で首を捻る。
「フフッ・・・、お仕事ですよ?奥様・・・・・いや、ママ?」
似たような口調で現時点での私の【仕事】を促し、内容示すように【ママ】と念を押した彼がゆっくりとその身を動かして寝室に向かった。