夫婦ですが何か?Ⅱ
寄りすぎた距離では顔は見えない。
でもそっとかがんだ彼の唇が耳を掠めるとその声を悪戯に響かせる。
「・・・・ポケットに入っていく?」
「私は・・・あなたの秘密道具ですか?」
「秘密道具すぎてレアな程にね、」
「レアにされたんじゃ宝の持ち腐れ。どこか別の有能な人の手足になってもいいんですよ?」
「・・・嘘つき、」
私の嫌味に焦るでもなくクスリと笑った彼が『そんなつもりないだろ?』と表情に映して。
そんな一瞬に彼の成長を、落ちついた余裕を垣間見て口元に弧を描く。
それだけで下手な言葉は無用。
私達がいつだって素直なのは・・・、肌の熱。
それを理解してなのか確かめる様に私の頬に指先走らせた彼。
「千麻ちゃんは・・・余すところなく俺の物だよ・・・。
俺だけの物でいて・・・」
「私の人権放棄しろと?」
「うーん、本当・・・俺達って視線と触れ合いだけで傍にいたら、目も当てられないくらいの仲良しだと思うのになぁ」
遠回しな言葉で皮肉に笑って。
でも、非難でなく冗談。
紆余曲折。
酸いも甘いも・・・痛みや苦味も経て得た夫婦の駆け引きと言葉遊び。
だから、彼の言う事は的を得ている。
慣れ親しんだ挨拶のような嫌味で愉快な言葉の戦争をしない限り、私と彼の姿はきっと・・・甘い。
そんな関係に成り得ようとは。
小憎たらしい上司の彼と、皮肉屋でドライな秘書であった私が。
こうして腕に確かな絆を示す娘を抱きしめて。
こんな生温く、過去の私であるなら想像しただけでゾッとした2人の夫婦像。
ああ、
困る程に浸って溺れてしまうのだ。
陳腐でありきたりな響きで示せば、
『幸せ』
・・・だ。
「・・・仮に、」
「ん?うん、何?」
「食事が全て菓子パンだとします」
「ぶっ飛んだ例え話で聞いてるだけで水分欲しくなるね」
「そんな中で極上のスイーツをデザートやサプライズで出されて本心から楽しんで歓喜できますか?」
「あ、・・ああ、ははっ、成る程。そういう例え話ね」
趣旨と意図は分かったと笑う彼が数回頷き、すっと動いた指先が指し示す様に私の頬を軽く突いた。
「極上スイーツ?」
「もう食べ飽きました?」
「まさか・・・、今も食べたいくらいです」
言いながら味見とばかりに寄せられる唇に、ニッと口の端をあげど指先も動く。