夫婦ですが何か?Ⅱ
驚愕のままに視線を絡めていれば、フッと脱力したように口の端をあげて拓篤が笑って。
困ったように方眉を下げて、口を開いたのにすぐには声は響かず、今更言葉を探しているような。
でも、選ばれたのは単純な響き。
「・・・・・茜君は千麻を大事に思ってるよ?」
「・・・・・知ってる、」
「大切で、大好きで、・・・一瞬でも離れたくないみたいに」
「【みたい】じゃなくて、本当にそう思ってる厄介な男なの」
「厄介?」
「鬱陶しいくらいにね、」
「でも・・・・・千麻は傍にいるね、」
「っ・・・」
「厄介で鬱陶しくて・・・、でも、・・・見放すでもなく、今だってこんな風に体が壊れても・・・傍から離れる選択肢は無いんでしょ?」
そんな事ない。
そう言い返すようにきつめの視線で拓篤を見たのに。
瞬砕。
まるで見透かして答えを知っているかのように、確信をもって柔らかな笑みで見つめられて。
その笑みに僅かな哀愁を感じるのは・・・・さっきの告白のせい?
そして『離れない』にかかるのは現在の事だけでなく、私と彼の事だけでなく。
引用として過去の・・・私と拓篤の結末が用いられている。
『離れてしまった』自分たちのそれとは違って、
彼とは『離れる』意思が無いのだろう、と。
そう感じ取れて思わず言葉に迷って押し黙ると、困ったように眉尻を下げた拓篤が先に声を響かせて。
「別に・・・責めてるんじゃないよ?」
「ん・・・」
「後悔はしてるけど、・・・あの時の僕には・・・『離れる』が正解の選択だったと思うから。
離れたから・・・千麻を好きなままでいられたから」
「・・・・」
「あの時はね、千麻と離れるほどに息がしやすくて楽だったんだ。『離れたい』って・・・言ったのは千麻だけど、言わせたのは僕で、・・・僕たちではそこがね、あの時は限界の想い方で。
・・・・・でも、千麻と茜君は違うんでしょ?」
「・・・っ・・拓篤・・」
「千麻はまだ・・・茜君と苦しくても先に進めるって信じてるんだ。・・・・苦しくても耐えて堪えて、・・・傍にいることを選びたいって」
「・・・・私、・・でも・・」
苦しくて、
何で苦しいのかも分からなくて。
私の体が拒絶する事に彼が傷つくのも辛いのに、
それでも、
一瞬でも『離れる』なんて意思は浮上しない。
長い迷走に疲れても、
壊れても、
解決策を模索する方を選んでしまう。
もう一瞬でも、
その輝きに畏怖する体であっても、
彼と離れるなんて道は存在しないのだ。
あの緑は・・・・私の物だから。