夫婦ですが何か?Ⅱ




近すぎて、顔が赤いのかも分からない程。


近すぎて、拓篤の眼鏡が触れる程。


くすぐるように触れる髪にじりっと熱く緊張感が高まって。


お互いにハッと意識したのも同時だったのだろう。


近すぎるその距離で意識して動揺にその目を揺らして。


一瞬の思考。


硬直して、どう動くか真剣に迷って。


理性と本能の対峙。


拓篤の。


触れている指先も理性の浮上の瞬間から中途半端な密度で触れて、離れるか更に密度を増すか。


揺れて揺れて。


その決断を、私自身もままならない思考で硬直して待って。


息を飲むような音が合図。


そんな音が聞こえるほど静寂だった部屋だと後々思うほど。


躊躇っていた拓篤の指先がよりしっかり頬に触れて、すでに掠めていた眼鏡の感触が強くなる。


同時に鼻先が掠めて。



「っ・・・」



息が唇にかかった。


そんな瞬間に本能が研ぎ澄まされて、思考よりも早くその身を退いた。


でも、同時に拓篤も。


拓篤のそれは本能ではなく自分で理性的にだろう。


ほぼ同時に寄って触れそうだった唇をすぐに離すように身を引いて。


そんなお互いの反応に驚いて視線を絡めて。


一瞬驚愕のまま見つめあった後に脱力し、困ったように失笑した。


驚く。


本当に私の体は厄介だ。


彼を拒絶し拒むのも本能なら、彼以外には受け入れたくないなんて他者を拒絶するのも本能で。


どうしよう?


あなたに触れてほしくないと本能が拒絶するのに、


あなたにしか触れてほしくないって本能が働くの。


困るわ・・・ダーリン。


自分の厄介で複雑な現状には笑うしかない。


でも自分の現状よりも早く向き合うべき存在に意識を戻して。


今も困ったように眉尻を下げ、今更羞恥心にその顔を染めている拓篤を見て一息。



「・・・・・拓篤の・・・不器用なキスが好きだったの、」


「っ・・・うん、」


「・・・・不器用だけど、・・・その一回一回が雑じゃなくて、気持ちがこもってて・・・、カルチャーショックだったのを覚えてる」


「っ・・えと・・なんか・・・経験浅いみたいで・・・、いや、実際・・浅いけど・・・・恥ずかしい・・・・です」


「褒めてるのに。・・・・拓篤の純粋さはいつだって向かい合った人を癒してるって」


「そ・・・そんな事・・・・でも、・・・そんな風に思っててくれたってのは・・・・、嬉しいや」



拓篤らしい軽い笑い声を小さく響かせて、照れくさそうに笑う顔は見事紅くて。


そんな姿も・・・・愛していた過去があって。


愛していたのは過去の時間なのだと再確認した。


少しだけ寂しいのは、・・・隣り合っていた時間を明確に記憶しているから。


そこから一歩、一度進んだ道を戻るように距離を離したから。


決してもう縮まる事のないその一歩だから。





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