夫婦ですが何か?Ⅱ
もちろん触れた先は接触求めて寄せられた唇。
でも、予測済みであったらしい彼も不満を示す事なくクスリと笑った。
「やっぱり?」
「・・・翠姫の教育上よろしくない理由と、
・・・元秘書として時間には厳しく正確な行動を求めたくなるのですよ」
もう猶予も限られた時間帯だと、彼の背後に位置する時計をチラリと確認しその身を引いた。
彼も自身の身につけている腕時計を確認し、さすがに納得して苦笑いを浮かべ私の腕から翠姫を抱きあげ歩きだす。
もう出来たリズム。
こうして彼が翠姫の相手をしている間に私は彼の体を満たす食事の調理に取り掛かるのだ。
良くも悪くも夫婦としての関係が築かれて、積み上げてきた物が塗り固まり基盤として安定してきた。
彼が翠姫とどっちが子供なのか分からない様な笑みで過ごすのを、チラリチラリと確認して家事をこなす。
・・・最高じゃない。
取り立てて、興奮する結果得る様な時間はない。
でも、充分だ。
このありきたりな平穏がなによりの安堵。
もう・・・、あんなままならない感情の溝にハマるのは御免だわ。
嫉妬、独占欲、秘密。
お互いの意識引く駆け引きの為なら、必要な程度のその3者もまだ甘さ引く物だと飲み込みましょう。
そんな絶妙な甘さと駆け引きでバランスをとっている現状が私達の【夫婦関係】。
バランスが取れているからこそ、信頼強いからこそ、最大に甘美で後を引く。
そして・・・、
油断する?
紆余曲折乗り越え、皮肉さえ駆け引きに遊ぶ余裕から。
一寸先は・・・?
カチャリと小さくコーヒーカップが音を立て、それを合図に顔を上げれば立ち上がり上着を纏う彼を捉えてその身をキッチンから出した。
タイミングよく目の前を通過しながら『行くね、』と歩き抜ける彼の背中を追って。
もう無意識に近い流れで靴べらを手にして彼に渡した。
彼もまた無意識のままに受け取り『ありがとう』と、声を響かせながら靴を履いて。
ゆっくりその身を起こすとにっこり真っ正面から微笑んで靴べらの返却。
「じゃあ、いってきます」
「しっかり我が家の財布を潤して満たすべく勤務に集中してきてくださいね」
「千麻ちゃんは・・・、絶対に俺を選んだ理由の一番に『お金持ち』が来てるよね」
「失敬な、」
「あっ、違うの?じゃあ、やっぱり俺の優しさにーー」
「金持ちのイケメンと金持ちのブサイクなら、性格ひん曲がっててもイケメンを取ります」
「ねぇ、明らかに俺を指さして言ってるけどさ、この場合【イケメン】部分に喜んでいいのか、【性格ひん曲がった】に嘆いていいのか分からないんだけど」
「いいじゃないですか。どっちにしろ選ばれたわけですし」
「納得いかないけど時間もないし、この話は夜にベッドでね」
「・・・・・・ダーリン、」
「ん?」
腕時計で時間を確認し、流れるままに体を扉に捻り始めた彼に待ったのように呼びかけ足止めさせた。