夫婦ですが何か?Ⅱ
そして言葉は明確でなくとも、楽し気に話しかける男2人に対して無表情で無言を貫き、その唇が動くのはビールを飲んでいる時だけという彼女。
それが物語るのは・・・、
絶対に他人だ。
ようやくその結論に自信を持った瞬間に、視界での展開も動きを見せて。
何を言ってもなびかない彼女に痺れを切らしたのか、馴れ馴れしく腕を掴んだ男の1人。
あっ、と、思ってその足を踏み出して、その男と彼女の間を遮るように飛びこんだ瞬間。
「っーーーー!?」
「・・・・・・あっ、・・・・・ごめん、」
やっぱり・・・
僕はヒーローじゃない。
別にカッコイイヒーロー気取りで行動したわけではないけれど、彼女を庇うように割って入れば。
直後にバシャリッと首から背中にかけてかかる液体。
よく冷えたそれに鳥肌が立つほどで、すぐに背後で響く彼女の謝罪。
それに複雑な笑顔で振り返って、自分なりに『気にするな』と告げたつもりだった。
多分、説明すればこうなのだ。
彼女は自分に接触を謀った馴れ馴れしい男めがけて自分の飲んでいたビールを浴びせるつもりで。
そんな事を知らずに、身の程知らずにも彼女を守ろうと突っ込んだ僕がその被害を受けた。
カッコ悪い・・・。
その惨めさを更に後押しする濡れた服の不快感と、髪から滴る水滴にビールの匂い。
『はぁっ?お前何?』
一瞬忘れかけていた男2人存在を投げかけられた声で思いだし、改めて向き合えば理解する飲酒の名残。
酔っ払い。
ダメだ、
こいつらはすでに宇宙生命体並に言葉が通じない。
そう判断して、意気込んで飛びこんだ癖に宥めるように作り笑いを浮かべて。
ああ、ヒーローじゃない。
本当、僕って何も出来ない。
それこそ本当・・・・の〇太君的な男だから。
脱兎。
作り笑いで威嚇するように睨んでくる男2人に対峙して、不意に彼女の手を掴むと走りだして。
カンッとコンクリートに音を立てたのは彼女のビールだろう。
男2人の『あっ』という声も響いて。
それでも漫画やドラマみたいな悪役は存在しないらしく。
特別追うほどの熱情もなかったらしい2人の気配はあっさりと自分たちを見放して。
それにも気がついていたから、程々の距離に離れたのを確認するとその足を止めた。