夫婦ですが何か?Ⅱ
運動不足を痛感する足の震えと激しい息切れ。
身を折り曲げて荒く呼吸を整えていれば、そんな俺を覗き込むように目の前でしゃがみ込んだ彼女と視線が絡む。
あれだけ走ったのに、息もきれていない、疲労なんて微塵も感じない。
それでも僅かに走った名残に乱れた髪が、月明かりで軽く透けて見えて。
純粋に賞賛だ。
「綺麗ですね・・・」
「・・・・・・よく・・・言われる」
その返答に思わず小さく噴き出して、そりゃあそうだと納得した。
綺麗なんて言葉は生きてきた年数分言われ、飽きているであろう彼女。
そしてそれを特別自慢にも思っていないような彼女のこの一言は嫌味に感じず。
千麻とは少し違う。
千麻は自分の魅力には無関心という感情の前に無自覚で、でも紅さんは魅力を知っていながら私的には興味がない。
でも、仕事の面ではそれを最大限に活用して、魅せる事を誇りとしていて。
ああ、そうか・・・なんか、
「感情の充電みたいだ・・・」
「・・・・・・・・何それ、」
ぽつりと思ったことを説明もなしに結論として響かせて。
当然理解できなかった彼女が無表情のまま疑問を向ける。
一瞬、自分の勝手な推測を口にして彼女が気分を害さないか懸念して、それでも疑問の眼差しに根負けすると体を起こして一息。
だいぶ落ち着いた呼吸で一度濃紺の夜空を見上げて。
ふわりと風を感じてから視線を彼女に戻していく。
「・・・・あくまでも・・・僕の勝手な妄想的推測です」
「うん、」
「だから・・・気分を害するような事があったらすみません」
「うん、・・・・何?」
しゃがみこんだまま頬杖をつく様に僕を見上げて、確か2つほど年上な筈なのにそんな感じがない。
年下のようにも見えるし、年上のようにも。
本当に掴みどころのない妖精のような人だと感じて小さく笑い、ようやく起こしたその身だったのに同じ目線に合わせるべくしゃがんで下す。
「・・・・・紅さんの無表情は・・・その間は充電時間のようで、」
「うん、」
「充電して、普段の感情を溜めて溜めて・・・カメラの前でそれを一気に解放しているような」
「・・・・・」
「自分の魅力を最大限に仕事に差し出しているような、」
「・・・・」
「つまり・・・えと、・・無表情を非難するとかでなくてですね。・・・・・その、
・・・・仕事が・・・・、家族の繋がりが大切なんだなぁ。
と、・・・勝手に大きく紅さんの印象を広げて思っただけです」
「・・・・」
「えっと・・・気持ち悪くてすみません」
結果、何か言い返される前に謝ってしまった僕って。