夫婦ですが何か?Ⅱ
僕が千麻に感じた物と同じだから。
記憶する千麻と同じなのに、
同じで歓喜して、過去と同じように手を伸ばしかけたのに。
肩すかし。
彼女の目はもう自分を捉えていなくて、隣り合っていても触れ合えるほどの親密さは過去の物。
自分はもう、彼女の過去の淡い思い出の登場人物で、今は隣に並んでも彼女の相手役にはなる事のない。
脇役だ。
確かに自分たちが主役であった時間があったのに。
でも知っている。
それを手放したのは、手放させたのは、過去の・・・つまらないプライドを選んだ自分。
「・・・・・・過去の美化に甘い夢を持ちすぎるんですかね?」
「ん?」
「僕も・・・・自分で無下にしたくせに、失ってからその大きさを知って・・・後悔して、都合のいい楽しい記憶ばかりを甘く回想して。
・・・・いつの間にか・・・期待してたのかな・・・」
手を伸ばせば、
また、並んでくれるんじゃないかって。
彼女の優しさに甘んじて、大きく期待して。
ああ、馬鹿だな。
それじゃあ、あの時と同じで・・・まったく変わってない。
期待して、彼女の優しさにつけこんで、
頑張ってる彼女を否定して、笑顔で毒を吐いて傷つけたんだ。
「・・・・・たっくん・・・」
「・・・・あ、・・・・すみませ・・・」
不意にかけられた声に、大丈夫だと口の端をあげて。
それでも絡んだ彼女の表情が慰めるように困ったもので。
実際慰めるように、さっきの自分とは逆に頭に置かれた彼女の手。
何でいきなり?と、いう疑問は頬を伝った涙で理解する。
うわぁ、情けない。
僕・・・・泣いてるんだ。
泣いて・・・。
「っ・・・・・大好きだったんです・・・」
「ん・・・」
「大好きで・・・大切で・・・・、今も・・・」
「・・・・・同じ大きさで返されない愛情って・・・、寂しい物だったんだね、」
「っ・・・」
「・・・・隣り合っている時は気がつけないんだもん。それが・・・・恋愛とかじゃなくても一緒。
私もちょっと・・・・寂しいんだ。
可愛い弟の成長が・・・・」
本当だ。
本当に彼女の言う通り。
でも、
精一杯の強がりで、
無理して寄せ集めたかもしれない綺麗と言える小さな本心を口にすれば。
「・・・・・・・笑ってくれてるなら・・・いいのかなって」
「うん・・・・、私もそう思う」
だから、
だからね、千麻。
僕の隣にもう並ぶことが無いなら、それはそれで諦めるしかできないんだけど。
ただ、笑っていてほしいんだよ。