夫婦ですが何か?Ⅱ
息を止めるようにそれを堪えて、胃のあたりに手を添える。
吐けば楽であろうにそれをする苦痛も知っているから踏み切れず。
込み上げそうなものを必死に堪えて抑え込むと、ようやくまともに酸素を吸って、再び手の中の炭酸水を煽って飲みこむ。
しんどい。
「・・・千麻?・・・大丈夫?」
リビングに背を向けてキッチンにいたせいで気がつかなかった拓篤の接近。
声に反応して振り返れば、寝癖に寝ボケ眼の拓篤がそれでも心配そうに眉尻を下げて伺っていて。
その不安の解消とばかりに、青白いであろう顔に笑みを浮かべる。
「大丈夫。・・・とは、言いにくいけど大丈夫よ」
「真っ青だけど・・・」
「ちょっとね・・・」
「・・・・・茜君の事考えてたの?」
「・・・・・・考えてたというか、・・・考えるように仕向けられたというか・・・」
「ん?」
「ストーカーじみた嫌がらせメールで起きたのよ」
何てことない文面ばかりの。
朝から暇ですこと。
そんな悪態を心について、それでも素直に歓喜する自分もいる癖に。
こんな事になっても変わらず何かしら接点を持とうとしてくれている彼に。
私の傍に自分を感じさせるように。
その愛情に満たされて、でも、不快感も強まって。
自分の体の中の矛盾に苛まれてもう悲しむより早く失笑。
不器用なんだか器用なんだか。
「・・・・でも、無理しないでね?」
「ん、」
「僕には・・・分かりかねる物だけど、・・・千麻が辛そうなのはちょっと・・・・こっちも辛いって言うか・・・」
「・・・・・大丈夫、時間が経てば落ち着くし」
おろおろと不安な表情でリビング側から私を心配する拓篤の姿に、一瞬今の距離を感じて僅かに眉尻が下がった。
昨夜の一線。
一定の距離を再度認識して、キッチンとリビング、それを遮るカウンターがそれを上手く示している様で。
心配していてもそれ以上は踏み込めないのだと言いたげな拓篤の距離に感謝もするし寂しくもある。
でも、正しい距離。
一瞬はまたセンチメンタルな感情に浸りそうになって、それでもこのままだと拓篤の眉尻は下がりっぱなしだと気分の切り替え。
持っていた炭酸水を再度煽ってキャップを閉めると、『さぁて』と腕まくりをして寄りかかっていたキッチンに向き直った。