夫婦ですが何か?Ⅱ
「ご飯・・・食べてないと思うよ、」
控えめに、躊躇いがちに響いた拓篤の声。
それにゆっくりと顔を上げてその姿を捉えると、何かを示す様によく分からない方向を指さしておどおどしている拓篤と対峙する。
今度は何を言いたいのかと怪訝に眉を顰めると。
「っ・・その、・・多分、食べてないと思う」
「・・・食べてるでしょ。昨日も紅さんに作ってもらって絶賛してたし」
「い、いや・・・その、あの・・・それは・・彼女がいればの話で・・・」
「・・・・・何が言いたいの?」
「だ、だから・・・」
意味わからなーー
「おはよう~、」
耳に響いた声に一瞬思考も不能になり、それでも声の主を確認しようとその身を返す。
キッチンの入り口付近で私と拓篤を寝ボケ眼で見つめているのは確か我が家に宿泊中の紅さんだ。
でも、あれ?
ここは確か拓篤の部屋で・・・。
えっ?
まったくその展開や成行きの予測が立たず、結果、答えを求めて拓篤を振り返ると。
気まずそうな笑みで寝癖の頭を掻いた拓篤がようやく説明。
「えと・・・昨夜コンビニ行ったら紅さんと遭遇して・・・、で、なんか・・・こんな事に・・・」
「・・・・」
「・・・・あっ!ちょっ・・ちょっと、違うよ!?別に変な意味じゃないよ!?きゃ、客間貸しただけで・・・」
別にやましい意味じゃない。
そんな風に顔を紅潮させて両手を振った拓篤を呆然と見つめてしまう。
我関せずな紅さんがリビング側からキッチン前のカウンターに身を置くと。
「お腹空いたねぇ・・・、何かある?」
そんな一言の瞬間に意識の回帰。
反射的な勢いで詰め寄るようにキッチン側から紅さんと対峙すると。
「っ・・ちょっ、何で!?紅さんがここに!?」
「・・・・・いけない?」
「なっ、だって・・・、か、彼は知ってるんですか!?」
「・・・・・言う必要ある?」
「あるでしょう!?心配します!!それに、だって・・・彼の食事っ、」
「・・・・私が作る義理はないと思うけど?
私には何の関係もない話だし・・・、
茜の奥様はあなたでしょ?」
「・・・・・・・・・」
さらりと、自分の興味外だと言いたげに、まだ覚めやらぬ眼差しでもっともな一言を告げた彼女。
そう、
もっともだ。
嫌味とか、そんな事の前に。
もっともな一言で、
だからこそぐさりと心に刺さって。
次の瞬間には意思よりも早くその足が廊下を走る。