夫婦ですが何か?Ⅱ



私達の朝のあり方よね。


もう飽き飽きする程繰り返していたというのに、こうやって振り返らないと忘れているような。


当たり前の中に埋もれすぎてて気がつかないくらいの。


積み重ねた、決して特別ではない些細な一瞬。


でも、積み重ねてきたのよね。


ゆっくり、じっくり、やり直し始めた時から私達のペースで。


そうして意識して繰り返した物が【当たり前】になる事の奇跡。


少し・・・忘れていたのかな。


それもまた、夫婦として時間の経過した証でもあって。


今こうして悩んで揉めている事でさえ、懐かしい思い出としてこの場所で回想するのが夫婦として過ごすという事で。


そうしたいと。


ただ、漠然と思う。


この部屋で掃除して、洗濯して、翠姫の行動に笑って困って。


今だって、まだ存在理由は見つけてはいないけれど、ただ、自分がそれを望んでいる事は分かった。


私は・・・・・ここに居たいのだと。


ありたいのだと。


妻として、母として。


そんな今更な事、・・・・馬鹿みたいだ。


壁に寄りかかってそんな感傷に浸って、スッと身を動かすとキッチンに向かう。


この家の中で一番私の存在が強い場所。


リビング以上にその使い勝手を知っていて、何も考えずに必要なものを手に取れて。


無駄な動きなく調理の出来る、自分仕様に出来上がっている場所。


確かめるように綺麗に整っているキッチンに触れて、今更ぐるりと視線を走らせて確認して。


不意に通りすぎた視線を僅かに戻すと、一つだけポツンとIHの上にある鍋に意識が集中する。


確か昨夜その鍋には味噌汁を作って置いておいて。


まさか、気がつかずに食べなかったなんて落ちじゃなかろうか?


そんな予想も働き、怪訝な表情で蓋の閉まった鍋を開封。



「っ・・・・」



一瞬の時間の停止。


勿論自分の感覚のみでの。


開いて捉えた中身に不動になって、


『馬鹿な仕掛けだ』とも思う癖に。


まんまとその仕掛けに心が疼いて。



「・・・気がつかなかったら・・・どうするのよ、」



こんな鍋なんて、中身を確認せずに片付けるかもしれない。


むしろ言われるまで存在に気がつかないかもしれない。


でも、


気がつくと確信を持って彼は仕掛けている。




< 493 / 574 >

この作品をシェア

pagetop