夫婦ですが何か?Ⅱ




私は絶対にこの部屋に戻るから。


私は絶対にこのキッチンに立つから。


そして私の性格や行動を知っているから。


私が何の確認もなしに片付けたりはしないと知って理解して、だから確信して仕掛けている。




【千麻ちゃんの作る味噌汁は世界一。

かは、分からないけど俺には一番!!】




そんなメッセージが鍋の中に潜めてあって。


馬鹿・・・。


そこは【世界一】の方が褒め言葉としては上でしょう。


だけど・・・、



「後者の方が・・・嬉しいと思う私は馬鹿ね」



心底困る。


なんて欲のない。


あなただけでいいなんて。


あなたさえ、


そう言って、私だけの何かを一番だと認めてくれれば。


必要としてくれれば。


そう、


馬鹿だ・・・私。




「っ・・・・こんな・・・単純に、」




単純な、事。


ポロリポロリと頬を涙が伝って落ちて、その度に負の感情が涙に溶け込んで体外に排出されているような。


どうしようもなかった感情が浄化していく。


単純なの。


たったその一言。


私を必要だと示す詳細を一言。


その一つが欲しくて、必要で。


たったそれだけの事でこの身は軽くなったんだ。


なんて、はた迷惑な私の心情だろう。



「馬鹿は・・・私・・・」



ぽつりと自分を詰る言葉を零して口の端をあげて、不意に脳裏に彼の姿が浮かんで。


いる筈もないのにキッチンの入り口を振り返ってその姿を映す。



『おはよう、千麻ちゃん』



それが、私と彼の一日の始まりなんだ。


だから、今日は・・・・・



「始まってない・・・・」



私の一日の始まりは、


彼のグリーンアイとしっかり対峙してようやく始まるんだから。




「っ・・・」




あ・・・れ?


あらら?


思ってもみない違和感にキッチンに寄りかかる。


おかしい。


何で?


そんな感覚で困惑に染まって、一瞬は最悪な方に意識を巡らせたけど、すぐに思考を一転させて寝室に走る。




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